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八神家の養父切嗣
二十三話:理想の終わり
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 一瞬、誰の声か分からなかった。そもそも外の声が聞こえるのが不思議だった。
 一体誰が、これほどまでの絶望の叫びを上げているのか理解できなかった。
 だが、しかし。はやてはその心が、魂が、覚えているとでも言うように瞼を震わせた。
 その光景に闇の書の意志は目を見開き、掠れた声を零す。

「まさか……切嗣が?」

 あの機械のような男がこれほどに心を揺さぶる声を出せるのか?
 自分の全てを捨ててでも目標を成し遂げようとする男が心を捨てていないのか?
 世界の為に、家族を殺すような選択しかできない男が―――奇跡を起こすのか?


 ―――愛していた! 家族をッ! 世界で一番愛していたッ! 娘をッ!!


 その言葉を聞いた瞬間、はやての凍り付いていた心は温かく溶かされ始める。
 閉ざされていた瞼から優しい涙が流れ落ちる。
 ゆっくりと目を開く主の姿に闇の書の意志は言葉が出なかった。
 あり得なかった。記憶している事例の中でこのようなことはただの一つもなかった。
 最も絶望に落ちた小さな少女が目を覚ますことなどあってはならなかった(・・・・・・)

「そっかぁ……。嘘…やったんやな…っ。愛してなかったなんて―――嘘やったんやなッ」
「主……」

 夢から目を覚ましボロボロと涙を流すはやてを闇の書の意志は何とも言えぬ表情で見つめる。
 余程のことがなければ目を覚まさないはずだった。
 その余程のことが他ならぬ切嗣の手によって起こされてしまった。
 間接的であるのかもしれないが娘を殺して世界を救うと誓った男が起こしてしまった。

「よかった…ッ。ほんまに良かったぁ……ッ」
「…………」

 父が自分と家族を愛してくれていたのだと知った彼女は絶望から救われていた。
 皮肉だ。絶望を与えたのは切嗣。そして絶望から救い出したのも切嗣。
 なのはとフェイトの言葉があったとはいえ、希望への引き金を引いたのは紛れもなく彼。
 はやてを絶望の底から救い出したものは―――愛。
 愛を捨て去った正義の味方(・・・・・)が否定した物。
 これを皮肉と言わずに何というのか。


 ―――死ぬしか他にない者が殺され、死ぬ理由のない人達が救われた!

 ―――これが正義(・・)でなくてなんなんだッ!?


「私達を殺すことで他の人達を救う……。それがおとんが思う正義なんやね」
「……恨みますか? 世界の為に娘を殺した父親を」
「恨めんよ……。だって、私のおとんはおとんだけやし。それに……背中を押したのは私やったんやなぁ」

 以前、病院で切嗣と会話をした時のことを思い出す。
 切嗣が正義と信じることを為すように促したのははやて。
 自信なさげに尋ねる父に微笑みかけたのは紛れもなく娘
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