5.姉ちゃんは年上
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クスムードが広がった。
そして、それは僕も同じだった。全身から緊張が抜け、視界の焦点が合い、周囲がクリアに見え始めた。手の震えが止まり、力も入る。トロンボーンをしっかりと持つことが出来るようになってきた。心臓の鼓動はバクバクとしたままだが、それでも先ほどの何倍もマシだ。
「吹っ切れましたか?」
「あ、ああ。なんとか。これならなんとかなりそうだ」
「そうですか。……ちょっと羨ましいです」
「へ?」
「なんでもないです」
指揮を行う顧問が僕達に起立するよう促した。さっきまでの僕なら、緊張のあまり顧問のそのジャスチャーすら見逃していただろう。でも今は違う。顧問の手の動きも、会場にいる人たち一人ひとりの表情も見える。そして……
「シュウくん……気合、入れて、がんばれ……!」
真剣な面持ちでそうつぶやく比叡さんの顔もよく見え、不思議とその囁きも聞き取れる。大丈夫、いいコンディションだ。これなら行ける。父さんと母さん、そして比叡さんも見守ってくれる。仲間もたくさんいる。これならいける。大丈夫。
顧問が指揮棒を持ち、右手を高々と掲げた。それに従い、楽器を構える僕達。二年と少しの部活の集大成をぶつける時間が今始まる。勢い良く振り下ろされる指揮棒の動きに従い、僕たちは最初の音を響かせた。
………………
…………
……
「……ごちそうさまでした」
いつものように母さんの夕食を平らげた後、僕は自室に戻ることにした。
「シュウ、お風呂は?」
「んー……今日は疲れたからいいや。このまま寝るよ」
実際、今日は疲れた…長時間の移動と慣れない場所での演奏、極限の緊張と二年半の集大成……今日は本当に疲れた……
「シュウ」
食堂を出るとき、父さんが僕の背中越しに話しかけてきた。僕は振り返らなかったから顔は見てないけど、父さんの顔が真剣な面持ちをしているのは、声色だけで分かる。
「二年半おつかれ」
「ん」
「お前の音、良かったぞ」
「ありがとう」
部屋に戻った僕は、机の電気スタンドだけ点けて、ベッドに横になった。その途端、ドッと疲れが押し寄せてきた。深くため息をつくと、心持ち胸が軽くなった感じがした。僕の部活は今日、全部終わった。
長かったなー……二年前に初めてトロンボーンに触れてから、ずっとがむしゃらにやってきたなー……なんて色々と思い出していたら、目に少しだけ涙が溜まった。
「……シュウくーん」
閉めてあるドアの向こうから不意に比叡さんの声が聞こえ、僕は上半身を起こした。目に溜まった涙を袖で拭き、もし見られても泣いてたってバレないように。
「比叡さん?」
「うん。入っていい?」
「どうぞー」
ぼくは反射的に、ドアに背を向けた。『失礼し
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