5.姉ちゃんは年上
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覚えている。今年の仕上がりも上々のようだ。
「うう……段々緊張してきた……」
ついさっきまではそんなことなかったのに、途端に緊張で体がこわばってきた。あれだけ練習してきて手応えも感じていたのに、今こうやって他校の演奏を聞いていると、途端に自分が実力不足な気がして仕方がなくなってくる。譜面台と楽譜を持つ手が震えて仕方がない。僕は震える左手を、右手で必死にさすった。
「先輩、落ち着いて下さい」
秦野が落ち着いた顔でそう言ってくる。お前緊張してないの?
「してますよ? してますけど、ここまで来たらあとはやるだけだなぁと」
「お前、強いね……」
「というか、先輩見てたら緊張がほぐれてきます」
秦野はこう言ってケラケラ笑う。お前、ホント強いよ……
やがて前の学校の演奏も終了し、退場していった。
『プログラム8番、神楽中学校吹奏楽部の演奏です』
アナウンスが僕達の順番が来たことを告げる。身体がビクンと波打ち、心臓が痛くなるほど脈打った。緊張が最高潮に達し、顔から血の気が引き、手足から力が抜けていくのが自分でもわかった。舞台に出て自分の席に座り、譜面台を立てて楽譜を置くのだが、手が震えてうまくいかない。2回ほど手が滑って楽譜を落としてしまった。
「大丈夫ですか? 顔真っ青ですよ?」
「し、心配ない!! ドドドドイツ軍人はうろたえたえないない!!」
「私達ドイツ軍人じゃないですし、そもそも先輩うろたえすぎです」
うあああヤバい。緊張で自分が何言ってるかさっぱりわからない。観客席を見るとほぼ満員で、たくさんの人たちがこっちを見ている……ダメだダメだ緊張で頭がどうにかなってしまう……
「シュウくーん!!」
うああああああついにあまりの緊張で幻聴まで聞こえてきたぞ。
「シュウくーん!!!」
あうあうあうあうあアカンもう無理逃げ出したい!! などと舞い上がっていたら、秦野が肘で僕をコツコツ小突いてきた。
「先輩」
「ん?!! な、なんだよ?!!」
「ほら先輩、あっちあっち」
僕は秦野が指差した方向を見た。焦点が合ってなかった視界で必死にその指の先を見るとその先には……距離が離れていても、私服を着ていても分かる。あの金色のカチューシャとショートカット。そして、暗がりでもよく見える、お日様のような笑顔。そう、父さんと母さんに挟まれて、比叡さんが席から立ち上がり、こっちに手を振っていた。
「シュウくん!!」
「比叡さん?!!」
「シュウくん!! 気合! 入れて!!」
『えー…会場内での熱いエールはお控え下さい……』
わざわざ放送でそう注意されてしまい、比叡さんは途端に恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら席に座った。方々からクスクスと笑いが聞こえ、会場にリラッ
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