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SAO−銀ノ月−
第八十九話
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「コラそこー! イチャイチャしてないで行くわよー!」

 会計を済ませた里香からの理不尽な怒りの言葉が響き渡り、それに苦笑いしながら俺たちも席を立つ。そしてふと思い立つと、俺は使い古した携帯を取り出した。

「悪いひより、ちょっと先に行っておいてくれ」

「……? はい」

 怪訝な表情をするひよりを先に行かせると、俺はある人物へと連絡をかける。直葉が来れるなら彼も来れるだろうと、この苦痛の女子会からの助けを求めるために。

「あ、もしもし――」

 こうして、俺たちは《死銃》事件という非日常から、ひよりも加わる日常に戻っていき……

 ……対して『彼女』の物語は、変わらずそのままで。




 ――とある病院のベッドにて、成人男性ほどの男が横たわっている。一見健康に見えるその青年は、身動き一つすらすることなく、ただただ横たわっていた。

 だから、死んだなんて信じられなくて。

「なんで……なんで……なんでよ……」

 青年の亡骸に対して小柄な少女は一目もはばからず泣いており、嗚咽とともにずっと同じ言葉ばかりを繰り返していた。誰が答えられる訳でもない疑問の言葉を。

「なんでお兄ちゃんは死んじゃったの……?」

 デスゲームと化したソードアート・オンライン。かの事件にその兄妹は巻き込まれており、兄はアインクラッドから帰還することなく死亡――その現実を前にしながら妹は、まるで壊れた機械のように、『なんで』、と繰り返す。

「なんでお兄ちゃんは死んじゃったのかな……なんで……アインクラッドに行けば、分かるのかな……」

 ――夢を見ていたような気がする。どんな夢だったか思い出そうとしても出来ないので、彼女は考えることを止めて目を開ける。装着していた《ナーヴギア》を外すと、天井に貼り付けたアインクラッドのポスターが、視界へと飛び込んでくる。

「あー……楽しかったァ……」

 今し方まで行われていたGGO――ガンゲイル・オンラインの決勝戦を思い出して、彼女は小さく感じて身を震わせる。相手の前に爆弾を置いて勝ちを確信した瞬間の、無かった筈の左手で自分ごとこちらも爆死させる荒技。

 こちらを捕らえんとする懸命に伸ばされる手に、自分以外の何者も見ていないような、それを思い返すだけで達してしまいそうな射抜く眼光――

「ぁは♪」

 アインクラッドで行われていたような、命と命を賭けた熾烈な戦いに近いものが出来たと確信できるが、やはりそれは近いものでしかない、というのも確かなものだ。彼も戦いが終わる間際に言っていた――生きているうちは負けじゃない、とも。この世界では負けても死にはしない、とも。

「分かってる、分かってるよショウキくん……今度は、負けたら死ぬところでやろう、
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