響ノ章
写真家赤城
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夢だ。幸せな夢。いつかの記憶。色褪せて欲しくない記憶。その断片。
だから、起きるのを少し我慢した。
これは、まだ彼女がいた頃の記憶だ。私の帽子も、もう少し草臥れた物だった。
「写真ですか?」
私が 鎮守府を歩いていると、一人の艦娘が話しかけてきた。赤城という名の娘だった。
「そうだ、見ての通り」
私はそう答えると、首から下げた写真機を彼女に向けた。彼女は少し赤面して、悲しそうな目を、こちらに向けた。
無言で写真機を構えるのをやめる。 生憎、悲しむ顔を撮る趣味はない。
「今日もですか。銀塩だって馬鹿にならない値段でしょう?」
「大丈夫。別に公金を使っているわけじゃない」
彼女は、呆れたようにため息を吐いた。彼女の言わんとする事くらいは、分かるつもりだ。だけれど、軽口を叩いてでも、これを続けたい。
「最近、ちゃんとしていますか?」
「飯もきちんと食べて、運動がてらに写真を撮って、とても健康的だ」
「提督にもう少しでなる、という人の言葉とは思えませんね。怠けているみたいです」
「それは酷い思われ様だな。提督になる、ということに関しては、怠けているつもりは全くない」
私は、この鎮守府で研修期間を過ごしていた。艦娘の提督になる準備の期間を。
提督になる。これは私の願いの一歩目だった。だから、それすら歩めないようではいけない。なれる時にすぐになって、願いの次の段階を踏まなければならないのだ。
「じょ、冗談です。御免なさい」
「怒ってない。けど、確かにこうして写真ばっかり撮っていると、皆にそう思われてしまうか」
指で写真機の表面を撫でる。結構な値段をしたものだ。割りと、私はこの写真機を気に入っていた。
「正直に言うと、そうかもしれません。けど、白木さんは提督になる努力を怠っていないのでしょう? じゃあ大丈夫ですよ。結果で証明できるじゃないですか」
「それはそうかもしれないが……」
絶対な自信があるわけではないが、このまま上手くいくと、来年あたりには私も、提督になれるだろう。でも、その時に、信頼がなければ駄目なのだ。部下に信頼されぬ上司になぞ、なる気はない。
「ああ、そうだ」
なら、簡単な話じゃないか。彼女に撮ってきてもらえばいい。私は怠けているように見えない。
「どうしたの?」
「赤城。写真を撮る気はないか?」
「言わんとする事は分かりました。遠慮します」
「綿飴」
ぴくりと、彼女の肩が揺れた。恐らくその心は、肩の何倍も揺れ動いていることだろう。
彼女は、綿飴が大の好物なのだ。
以前、娯楽の一興で、綿飴を作ってみた。勿論、鎮守府にそんな機械があるわけないから、自作の小さな装置を使って。
何人かの艦娘に食べてもらったら、皆
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