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逆さの砂時計
アリアドネの糸
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私もな!」

 ビシッと人差し指を突き立てた私をじっと見て。
 変態キング神父は、困ったとでも言いたげに両肩を持ち上げて苦笑う。

「私自身が伝えなければ、意味がなかったんですけどね。やむを得ません。もう一度、ちゃんと聴いていただけますか?」

 アリアがますます縮こまる。

「嫌なこった。面倒くさい!」

 腕を組んで横を向いたら、クスクスと楽しげな笑い声が耳を撫でた。
 ベゼドラといいコイツといい、謝る気なんか全然無いだろ!

「すみませんでした」

 しかも、勝手に言い出すし!

「それでも私は、貴女を愛しています。ロザリア。そして、アリア」
「……っ」

 実体でもないのに、くわあっと急激に顔が熱くなる。
 この野郎、性懲りもなくっ!

「やめて……っ! 私は本物の女神じゃない! 貴方達を酷い目に遭わせた私に、そんなこと言わないで!」

 アリアが首を振って、クロスツェルの声を(さえぎ)ろうとする。

 そりゃあ、結果だけ見ればな。
 直接ではないにしろ、自分の身勝手でクロスツェルの家族を殺したんだ。
 自己嫌悪にもなるわな。

 だが、私にしてみりゃ、ひたすら鬱陶しいだけだ。

 お前のせいで、クロスツェルもベゼドラも死にかけてんだぞ。
 本物の蒼の女神だって、もう少し遅かったら殺されてた。

 お前の!
 私のせいで!
 どれだけの奴が死んだと思ってんだ!!

「ええ。貴女は、かつての神父が信じ崇めていた女神ではない。私は、私に生きろと言ってくれた貴女という存在を、愛しています。アリアでもあり、ロザリアでもある貴女という存在だけを、心から愛しています。ロザリアと共に、私の手を取っていただけませんか? 私は貴女と生きていきたい」
「どうして!? どうして私に、そんなっ……」
「遥か昔、創造神として悪魔達を退治し、封印した女神アリア。貴女は何故世界を護ったのですか?」
「護ろうとしたんじゃない! 自分にとって居心地が良い世界に変えようとしただけよ! 私の、……身勝手な、わがままで……っ」
「おや、奇遇(きぐう)ですね。私も同じですよ。単なる身勝手なわがままです」

 アリアがピタッと止まった。
 バカみたいに濡れまくった顔をクロスツェルに向けて。
 信じられないと目で訴える。

 にこっと笑ったクロスツェルは、アリアの横に片膝を突いて、固く握ったアリアの左手をふわりと引き寄せ……
 あれ? と、私が明確な引っ掛かりを覚える間もなく。
 その甲に、軽く口付けた。

「貴女が欲しい。私自身はどうなっても構わない。私の傍で、ずっと幸せに笑っていて欲しい。理由なんて、そんなものです」

 アリアも。
 ついでに私も。
 言葉が出ない。

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