第二十一話 新人事(その1)
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を見合わせた。ホッとした様な顔をしている。公も笑顔を浮かべている。
昨日、遠征軍がオーディンに戻ってきた。ケスラー、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ミュラー、シュタインメッツ、そしてキルヒアイスと祝いに行こうという話になったが良く考えれば相手はブラウンシュバイク公だ。門閥貴族達が大勢屋敷には押しかけているに違いない。一日置いて訪ねようという事になった。
大勢で押しかけたにもかかわらず、公は少しも嫌がらず我々を応接室に案内してもてなしてくれている。皆にコーヒーが用意された。少し歓談した時だった、応接室の扉があいてブラウンシュバイク大公が入ってきた。皆慌てて立ち上がった。
「いやいや、それには及ばん、皆座ってくれ」
「……」
大公は闊達に声をかけてくるがとても座ることは出来ない。大体ブラウンシュバイク公も立っているのだ。その有様に大公が苦笑した。
「皆、よく来てくれたな。うむ、そこにいるのはミッターマイヤー少将か、息災かな」
「はっ。無事暮らしております」
ミッターマイヤーがガチガチになりながら答えると大公が笑みを浮かべながら頷いた。
「皆、これからも遠慮せず訪ねてくれ」
「はっ、有難うございます」
「うむ。ではわしはこれで失礼する。皆の邪魔をするつもりは無いのでな。ゆるりとしてゆくがよい」
「義父上、有難うございます」
公の感謝の言葉に大公は柔らかい笑みを浮かべ、応接室を出て行った。
大公が出て行くと皆が席について顔を見合わせた。
「驚いたな、まさか大公が俺達にわざわざ顔を見せるとは」
「特に卿は驚いたろう、ミッターマイヤー」
「ああ」
ミッターマイヤー、ロイエンタール、二人の会話に皆が頷いた。
「私に気を遣ってくれているのですよ」
「意外でした、こう言っては失礼ですがもっと傲慢な方かと思っていたのですが……」
「ケスラー少将、私も最初はそう思っていました。でもそう見えただけのようです」
公の言葉に皆が感心した様な、驚いた様な顔をした。
「ブラウンシュバイク公爵家の当主というのはごく普通に振舞っても傲慢に見えるときが有るのでしょうね」
「ですが、公はそうは見えませんが」
俺の言葉に公は苦笑を浮かべた。
「貴族達の中には私を酷く恐れている人もいます。彼らにとって私は傲慢極まりない存在に見えるのかもしれません」
「……」
言葉が無かった。
「昨日、貴族達が大勢来て勝利を祝ってくれました。ですが軍の事を知らない人達に祝って貰っても……。素直に喜べない私は確かに傲慢に見えるのかもしれません。好き嫌いは別として素直に喜ぶだけの余裕があれば……、情けない話です」
公が首を振っている。寂しそうな言葉と仕草だ。
胸を衝かれる様な思いになった。俺は公を傲慢だとは思わない。
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