月下に咲く薔薇 20.
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しまった瞬間に立ち会っている。
どちらからともなく、足は自然と格納庫の一角を目指していた。
「って、何やってるんだ…?」
胸周りの大きい銀色の機体、ニルヴァーシュの足下近くに大きな人垣が生まれている。
外周で背伸びをしつつちらちらと上から覗き込もうとしているのは、竹尾ゼネラルカンパニーの木下か。彼が場所を変える度に、キタンやヨーコと思われる後ろ姿やバランスの取れた高校生年齢の後ろ姿が現れる。
転写された月の陰影は、やはり立派な見世物と化していた。昨日ショッピング・モールに出掛けたメンバーとは入れ違いになっているらしく、既にこの場にはいない。
滑走路にケンジや勝平、レントン達。午前のパトロールには、オズマ少佐のメサイア他、5機が割り当てられている。
そのいずれの役割からも外れた面々が、己の中にある好奇心に従い、敵が残した痕跡の近くに集っていた。甲児とさやかにジュリィ、竜馬や隼人、チームDの姿もある。
アテナと藤堂は?
いた。アテナの黒い長髪が見える。
「随分とお揃いのようだが、そんなに近づかない方がいいぞ」やや呆れ気味に、ロックオンが警告する。「何しろ、敵さんが残した土産だからな」
「パイロットたる者、何でも自分の目で確かめておきたいものだろう」隼人の声がし、それまで人垣の奥で跪いていた男が立ち上がった。「現象自体が、実にユニークだ。直接見に来ておいて良かった。敵の全貌がわからないなら、余計にそう思うものだろう?」
「ご尤も」
クロウはそう答えるしかなく、皮膚感覚で敵の力を捉えようとする仲間達を少し離れたところから見守っていた。
密談に加わっていた隼人はともかく、あの人垣の中で、現れては消える敵の情報とその脅威を深部まで合致させている者はそう多くはない。彼等は、クロウ達以上に何もわからぬまま昨夜の怪植物と遭遇し、アイムが襲われる場面に出会していた。
何かが起きる度に、各自の携帯端末宛に状況と経過を伝えるメールは届く。それでも、クロウが発芽を不安視した事など伝えないものはあり、零れ落ちた情報はガロードが拡散させたように全てが口伝えで広まった。
自分が誰と、いや何と戦っているのか。クロウ達もよくはわからないが、彼等はクロウ達以上に知らない事がある。トリガーに指をかけ、守りたいものの為に恐るべき力を振るうと決めた者達だからこそ、それを知るヒントとなる敵の痕跡一つづつが大切になってくる。
桁外れな力を持つ敵と戦うしかないのなら、その覚悟を養うきっかけが欲しいのだ。些細なものでもいい。皆がそれを一斉伝達の情報に加え、更に自身を研ぎ澄ます。
情報によって安心を得たいのとは違う。常人を打ちのめす程の残酷な内容でも、彼等は巧みに自身を変えてゆく。何者にならなければいけないのか、という戦士の底の部分を。
ZEX
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