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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 20.
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くしたてる。その気力が伝染したのか、少年からは次第に気怠さが抜け落ちてゆく。
「アポロ。そいつは敵の臭いだ」
「ああ、わかるぜ。次元獣もどきの臭いもバラの臭いもしてらぁ」座ったままの少年が、前のめりになっているクロウをきっと見上げた。「でも、何種類かある。クロウ。お前からする臭いは、昨日の次元獣もどきやアテナのと似てる。だけど、ミシェルとニルヴァーシュとさっきのおっさんは、ちょっとだけ別な臭いだ」
「おいおいおい…」
「大きく分けて2種類あるって事か?」
 悪寒を堪えきれず、クロウとロックオンは同時に顔をしかめた。
 アポロが感じ取っている違いは、おそらくZEXISに助けを求めた者と敵対する者が及ぼす力の混在の度合いだ。もしかしたら、仕込んだ相手によって臭いに違いが出ているのかもしれない。
 共にバラの花を贈られた筈のミシェルとアテナが、やや性質の違う贈り物を受け取ったのだとしたら。バラの花もまた、同じに見えながら実は2種類あるという事になる。
 しかも、だ。先程の会議を振り返る限り、藤堂は未だ何一つ上に報告していない。黒の騎士団を束ねるゼロにさえ。
 それでもミシェルと同じ移り香をさせているなら。アポロが嗅ぎ取ったものをこちらがどう受け止めるべきかは、本人に直接会って確かめるより他にないではないか。
 先程の目線。藤堂は間違いなく、アポロかクロウとの会話を欲している。
「だけど、違いったって、ほんの少しだ。どれからも次元獣の臭いはするし、どれもあんまりいい感じはしねぇ」
 2人の前で親指と人差し指を僅かに開き、その差が微々たるものである事を彼は強調した。
「他には?」
 ぽりぽりとアポロが自分の頬を掻く。そして、余りにも熱心なクロウに憐憫の眼差しを向けた。
「芽、出ないといいな。鼻や口から」
「…ありがとうな。助かったぜ」
 クロウは協力と気遣いの両方に礼を告げ、ナッツの袋を買い足してやると少年の前にそっと置いた。
 ロックオンと共にテーブルから離れる。一刻の早く藤堂を問い詰めたいが為に。
 急いで立ち去るつもりだったが、「いや、もう一つある」と隻眼のスナイパーが突然取って返した。「なぁアポロ。昨夜のホワイト・アウトの瞬間、何か聞いたか? 音とか声とか」
 考え事の為にしかめ面をした少年が、一拍置いた後「全然。って、何かあったのか?」と逆に問い返す。
「情報収集だ。なるべく多くの証言が欲しい。些細な事でもいいんだ。多分、何も聞いていないって連中の方が多い筈なんだが。もし何か思い出したら、俺達に教えてくれ。他のエレメント操者にも、そう伝えてくれないか?」
「ああ。話しとく」
 サロンを後にするクロウが一度だけ室内を顧みると、する事がなくなったアポロは再びテーブルに伏せそれきり動かなくなった。さっそく肩が、規則正し
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