月下に咲く薔薇 20.
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ミヅキの言葉を合図に、集団がぞろぞろと移動を開始した。手書きの表は折りたたみ、谷川が持って行く。
最後尾のミシェルが目配せして去ると、サロンは急に静かになった。
端から端まで靴音が通る空間は、先程までとは別物だ。室内の見通しもきくので、あちこちの席に未だまばらな人影がある事に今更気づかされる。
その中でも、特に背格好の小さな俯せの少年に目が行った。日の当たる窓際の席だ。
2つ折りにしている体の上半分が、やや億劫そうにむくりと起き上がる。
癖のある明るい色の短髪と痩せ気味の体格。アポロのものか。
「なんか無理してるよな。…それでも笑えるんなら、まだ大丈夫だ。俺達は」
小さな袋から粒を取り出すとカリッと噛み砕く音をさせ、真冬でも生腕を晒している少年が見送った仲間の感想を話す。
気怠そうな口の動かし方が、気力に満ちあふれた普段の様子からは程遠かった。遊び疲れた子犬というより、自由のきかない病み上がりに近い。
大事をとって午前中はここから動くなときつく言い聞かせるシルヴィアの顔が、クロウの目にも浮かぶ。
「そんなお前は、大丈夫なのか?」
ロックオンがその背に声をかけつつ、小さなテーブルの端に回り込む。
ついてゆくクロウは、ロックオンの立ち位置におやと思った。もしや、さりげなく直射日光を避けてはいまいか。
「当ったり前だろ!? 自分の腕がもげた訳じゃねぇ。このアポロ様は、今日も戦えるぜ! …マシンが直ればな」
「そうか。お前が元気で何よりだ」
話の内容と落ちくぼんだ両目の落差が、少年の見栄を如実に語っている。それ以上昨日の戦闘について触れるのは避け、クロウは窓寄りを選んでロックオンの隣に近づいた。
「あ…?」
スナイパーが嫌な顔をしたのかと思いきや、反応しているのは座ったままのアポロの方だった。
高く顔を上げ、盛んに鼻をひくつかせる。顔が行き来し、臭いの主を探す鼻先は最終的にクロウを指して止まった。
「どうした? 小銭の臭いでも嗅ぎつけたか?」
そんな性癖があるのはお前だけだとロックオンが目線で批判する中、アポロは何も聞こえていないのか、一旦呼吸を整えた後再び犬の仕種ですんと嗅ぐ。
「…何だ?」
ようやくクロウは、アポロが何を探っているのかを理解した。
何とアポロは、臭いで相手の本質を見抜く。やんちゃな顔つきが示す通り野性的な気質の少年だが、その実、人や獣から最も離れた神話的存在の生まれ変わりと言われている。
クロウの中にあるクロウでない物。それが、今頃になって疲労感の残る少年の嗅覚を刺激し始めたのかもしれない。
鼻を鳴らす顔がついとクロウから離れ、今度はサロンの出入り口を指した。
「ん?」
「え…?」
見逃す訳にはゆかない反応に、クロウとロックオンは咄嗟に身構え鼻の指す
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