01. プロローグ
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彼女に会うために戻ってきたのだったな」
少年の眼差しを受け、女性が初めて表情を和らげた。
自宅に戻ってきた子供を迎える母親のような、微笑にも近い優しげな笑みへと。
「わたしが聞きたいのはただ一つだけ。お前は穢歌の庭の何層まで堕ちた?第五鏡面か、第六鏡面か。それとも、最深部に流れる『あの歌』を聴くことができたのか?」
その問いかけに──
今まで沈黙していた少年と弱々しく口を開き、気絶していたはずの少女が虚ろな目を開けた。しかし声にするだけの力はなく、半開きの少年の口からは掠れた声が洩れただけ。
「答えたくてもその体力がないか。まあそれはそれで構わない、遠からずうち自ずとわかることだ」
女性は、夜の暗がりの中でも目につく艶やかな黒髪を手で梳き。
「わたしの名はツァリ。だがここで覚える必要はない。いずれまた、嫌でもわたしの名を聞く時が訪れる。だからこそ今は──あらためてお前を歓迎しよう」
そして、深い琥珀色の瞳に輝きを灯し、ツァリと名乗る女性は少年と少女の手を握りしめた。
「ようこそ。穢歌の庭に堕ち、そして浮遊大陸へと登り帰った者よ。千年、凍てついた楽園がお前たちを待っていた」
その夜、浮遊大陸オービエ・クレアは、観測史上稀に見る豪雨を記録した。
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