01. プロローグ
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──冷たい雨だった。
一度濡れれば骨の髄まで痛みを感じる凍てついた雨。まるで、氷の結晶が雫の形のそのままに降ってきた……そんな雨だ。
建物の屋上を抉るような勢いで打ち付ける天の涙。周囲に木霊する水の爆音は、雨音の範疇を超え、もはや滝と呼んだ方がふさわしいかもしれない。
どれだけ降り続いていただろう。
はるか天上からの雨量はかつてない記録を弾き出し、その勢いは今もなお、衰える気配を見せなかった。
ぴちゃっ……
夜の帳が降りた薄暗い路面に、小さな小さな波紋が生まれた。
轟とうなりを上げる水飛沫、公道に設けられた街灯に何かが照らされる。朧げな光の下で、水浸しの道を這いずりながら進む少し異形な黒い影。
──それは、一人の少年と、その少年よりやや幼い印象を受ける少女だった。
少年は、十代半ばの十四歳か十五歳か、少女は十二歳か十三歳か。夜光灯の輝きに紫に近い鳶色の髪と水晶のような薄い蒼色の髪が光を反射する。
「……っ……っぅ………………っッ」
少年は悶え苦しむような、声にならない嗚咽を洩らし、少女を背中に乗せたまま凍てつく雨の中を這いながら進んでいく。何らかの儀礼衣と思われるコートは大部分がボロボロに崩れ、その大穴からは少女と少年の血塗れの肌が痛々しくのぞいていた。
……じゅっ。
何かが焼け焦げる音が雨に混ざる。少年が這い進んでいく路面で、その進んだ後が、まるで強力な酸を浴びたかのように溶けていたのだ。
それを示すかのように、少年の身体をうっすらと覆う濃紫色の霧、そして少女を覆う紫黒色の影のような霧。それはまるで、その身体がなにか不可解なものに取り憑かれ、呪われているかのようだった。
「……っ……ぁ……」
常人ならまず生死を疑う状況で、それでも少年は何処かを目指して進んでいた。
半死人のような状態で、身体を数センチずつ前へと進めて行く。
その先に設置された公共の無人休息所。
身を切り裂くように冷たい氷雨も、そこまでたどり着けば凌ぐこともできるだろう。止まる様子のない出血も、とにかくそこで手当てしなければならない。
五メートル………………四メートル………………三メートル。
少年は、とうとう頭から路面の水溜まりへと倒れこんだ。もし、少年一人ならば、休息所の扉にも手が届く距離にたどり着いたからもしれない。けれど、多量の出血に加えて、小さいとはいえ少女一人を背中に乗せているのが現状で、少年は倒れ伏し、少女は意識を未だ失っているのか、身動き一つしない。
二人のおびただしい出血が雨に流れ、少年の顔はうつ伏せのままに泥水の中へ。
泥水を拭うことすらせず、少年は倒れたまま動かない。否、動けなかった。全身からの
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