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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十二 〜交州始末〜
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 そして、風は懐から書簡を取り出した。
「この五年なんですがー。他国から輸入された量に比べて、他州に運ばれたり、自州で売られた量が明らかに少ないのですよ」
「…………」
「それ以外にも、他国とか、山越族と思われる人で、同一人物が頻繁に出入りしている、というのもありましたねー」
「疾風。明命が申していた事と、一致するようだが」
「はい。……士燮殿、お気を悪くしないでいただきたい」
 と、疾風は断ってから、
「士燮殿を調べたのは、山越との繋がりだったのです。この交州と山越族が、何らかの繋がりがある気配がありましたので」
「そうでしたか。ですが、はっきりしなかったのでしょう?」
「その通りです。ですが、関わりがあるのが士燮殿でなければ、これも説明がつきます」
「ただですねー。風が調査しなければ、そこは不明瞭なままだったのですよ」
「……つまり、だ。士武らは南方貿易で得た利の一部を隠していた。そしてその利を以て、この交州の実権を握る為に山越らを利用していた。そうだな?」
「歳三殿の仰せの通りです。山越族としても、自らが独立を維持するのに資金が必要。それを求めての事だったようです」
「それで、風を亡き者にしてしまえば、って思ったのでしょうねー。酷い話なのです」
 確かに、許し難い話だ。
 己の私腹を肥やすだけならばまだしも、その為に風が狙われ、愛紗は傷ついた。
 もはや、言い逃れられぬところであろう。
「疾風。士武らは如何しておる?」
「は。手の者に探らせていますが、事が露見した以上、座して死を待つような真似はしますまい」
「うむ。だが、無用な血を流すのは好ましくないな……風」
「はいはいー。山越族とか他国の皆さんと、士武さん達を切り離す工作ですねー?」
「そうだ。信ではなく、利で繋がっている者は断ち切る事も容易かろう。切り崩しを進めよ」
「御意ー」
「疾風は動きから目を離すな。それから、この事を睡蓮(孫堅)に伝えよ」
「はっ!」
「そして、士燮。こうなった以上、お前の一族は誅さねばならぬが……良いな?」
「……はい。覚悟しています、私への処罰もご存分に」
 観念したように、眼を閉じる士燮。
「早合点致すな。私は、お前自身を罰するつもりはない」
「ですが、一族の長としての責めからは逃れられません」
「無論だ。だが、お前なくしてこの交州は治まらぬ。それも事実ではないのか?」
「そ、それは……」
「お前は真に庶人の事を考え、政を進めて参ったではないか。ならば、咎め立てする理由など何処にもない」
「…………」
「それでも罪を求めるのならば、この交州の為に尽くせ。それが、一番の贖罪だ」
「土方様……。貴方という方は」
 大きく溜息をつく士燮。
「わかりました、私の負けのようです。……この命、如何様
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