8部分:第八章
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第八章
「そうされますか」
「ああ、そうだな」
隼士はガイドのその提案に頷いた。そうしてだった。
二人でそのベナレスの街を歩く。そこで彼はまた牛を見たのであった。
あまりにも多い人ごみの中に普通に牛がいる。かつては有り得ないと思った光景である。しかしであった。
今見ればだ。それが普通のものに感じられるのだった。それでだ。
「なあ」
「はい、何か」
「ニューデリーで見た時はな」
「牛ですか」
「すっごい有り得ないって思ったよ」
こう話すのだった。
「けれど今はな」
「違いますか」
「自然に思えてきたな」
首を傾げながらでもだ。言うのであった。
「何かな」
「左様ですか」
「自分でもどうしてかわからないさ」
それを言う彼だった。
「けれどそれでもな」
「思えてきたのですね」
「慣れてきたのか?」
まずはこう考えた彼だった。
「これってよ」
「違うと思いますよ」
しかしガイドはそれは否定したのだった。
「それについては」
「じゃあ何なんだ?」
「私はこれまで多くの外国の方をこうして案内してきましたが」
ガイドなら当然のことだった。しかし彼はここであえてこのことを話すのだった。
「ですがどなたもです」
「俺みたいなこと言うのかよ」
「はい、そうです」
その通りだというのである。
「そしてそれはどうしてかというとです」
「何でなんだ?それで」
「インドのこの悠久を知ったからです」
それでだというのだ。
「この様々なものが内包されている悠久をです」
「悠久か」
「はい、悠久です」
「これが悠久っていうのか?」
「私はそう思いますが」
「悠久じゃないんじゃいのか?」
隼士はいぶかしみながらこう言うのだった。
「悠久っていうと時間の話だろ」
「インドは何千年も前からこうですが」
「何千年か」
「インドの歴史は何千年です」
この歴史の長さは隼士も知っていた。その歴史の長さでも有名な国だからだ。彼もそれに興味を持ってインドを今回の旅行に選んだのである。
「ですから」
「何千年も前からこんなのかよ」
「確かに現代文明も入っています」
それは否定しなかった。インドは近頃経済成長もめざましいのだ。
「ですがそれでもです」
「牛はずっといるのかよ」
「そして神々も。河もです」
「どれもあるんだな」
「勿論カレーもです」
それもだというのだ。
「全て。このインドの中にあるのです」
「悠久のこの中でか」
「それがインドなのです」
「物凄い国だな」
思わずこう言ってしまった彼だった。
「インドってのはな」
「それもよく言われます」
「本では読んだよ」
またこのことを言う。
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