精神の奥底
52 Dark Side Of The City 〜後編〜
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体は一気に年をとってしまったようだった。
間違いなくメリーがもらわれていく頃には、この世にはいない。
だがせめて生きている間だけは、誰にも手を出させたくなかった。
しかし密着している間に感じる肌との感触が愛おしくなり、まだ死にたくないという気持ちが生まれて踏み止まる。
身体は既に事実を受け入れ、心も何処かで受け入れているというのに、間違いなく未練があるのだ。
気づけばメリーにくっつくだけでなく、抱きしめていた。
メリーからではなく、彩斗からというのはかなり珍しく、メリーも一瞬驚いていた。
「…何かあったんですか?」
「あまり妹にはこんな弱々しいところ見せたくないんだけど…悪い夢だと思って忘れてくれ」
「…いいんですよ?たまには甘えてくれても」
「ありがとう」
「私たち、親の顔も覚えてませんし、特に兄さんは昔から甘えられる相手がいなかったですもんね」
「疲れてるのかな?何だかすごくモヤモヤして…うまく言葉にできなくて…」
「何でも1人で抱え込むのは、本当に昔から悪い癖ですよ?一度に1人で何でもやろうとするから、そうなるんです」
「君の悪い癖でもあるけどね。兄妹だから仕方ないか」
「困った時は頼っていいんですよ?私も…困った時、頼りますから」
「フッ」
「どうしたんです?」
「さっきアイリスにも同じようなことを言われた」
「……」
「大きくなったね、メリー。知らないうちに身体も心も、すごく成長した」
「…普通なら今のうちだけですよ?」
「え?」
「こんなふうに直接、妹と一緒のベッドで寝て成長を確かめられるの。私はいくつになってもオッケーですけど」
「フッ、可愛い奴め」
「あんっ…」
彩斗は左腕のシーマスターを外して枕元に置くと、メリーの頭を撫でた。
メリーも彩斗も負けじと、彩斗の顔に自分の顔をすりつけてくる。
まだ幼く柔らかい互いの肌の感触を感じ合いながら、再び沸き起こってくる眠気に再び身を委ねた。
その兄妹の微笑ましい様子は、まるでじゃれ合うのに疲れて眠る子猫の兄妹のようだった。
2人が眠りに落ちた数分後、少しずつ外は明るくなり始めた。
既に始発は発車し、街も本格的に動き始める。
長く濃密なデンサンシティの夜はようやく終わりを迎え、朝がやってきた。
新しい1日が始まったのだった。
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