精神の奥底
52 Dark Side Of The City 〜後編〜
[8/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
休めば、すぐに回復するだろう。
「……」
自分の身体のこともそうだが、一番思い出されるのは、病院で出会ったValkyrieの客の少年だ。
自分より幼く、自分と同じような辛い経験をしてきた彼とのやり取りが数秒前の出来事のように思い出せる。
会話とシンクロで感じられたことからすると、少年も彩斗同様に暴力が大嫌いなのは間違いない。
青春ドラマやヒーロー番組では、青春の象徴であったり、かっこ良さの一部だったり、あたかも正義の象徴のように美化されていることも多い。
しかし本当は違う。
彩斗にとって暴力は所詮、相手を傷つける手段であり、相手に望まないことを強いる手段であり、そして自分の心を殺していくもの以外の何物でもないのだ。
暴力を奮われれば、当然痛む、そして心にも傷がつく。
それが不条理な理由で奮われたものだとすれば、尚更痛む。
奮った方がふざけ半分ですぐに忘れてしまったとしても、受けた方は痛み、苦しみ、忘れることができない上、記憶という形になって長い間、心に居座り続ける。
人間は他の動物と違って、言葉でお互いを分かり合える魅力を持ちながら、暴力でしか分かり合えないのが、彩斗にはどうしても納得できなかった。
殴り合うだけなら、もっと知能の低い動物でもできる。
やってることのレベルとしては低レベルなものだというのに、河原で夕日をバックに殴り合って、笑顔で友情を深めるようなことが美化させるのが理解できないのだ。
そんな物語をテレビや書店で見かける度に反吐が出た。
「…ッ」
暴力を遊びに捉えて、殴られる痛みも知らない一方的に殴る側の人間には分からない、「暴力を奮う側の痛み」というものを彩斗は少年に伝えたつもりだった。
自分が傷つけられれば、相手を憎み、懲らしめてやりたいと思うのは人間である以上、当然だ。
笑顔で許すという人間の方がどうかしているだろう。
しかし実際に、暴力を奮われればここまで苦しいのだと知りながら、それを相手に与えられるか?ということだ。
確かに相手への怒りは晴れるかもれない。
しかし、同時に相手がどんなに極悪非道の者であろうと、無条件で心が痛むのだ。
全身の血が引いていき、凍りつく感覚が沸き起こり、息が苦しくなっていく。
そして締め付けられた心から、虚しさと悲しさが絞り出される。
彩斗もバイザーを着けている間は冷血でただひたすら悪を潰す機械のように振舞っているが、本当は今にも泣きそうで、心の中ではもう泣きっぱなしだ。
彩斗の見た限り、少年は悪い人間ではないし、優しさと強さを持った人間だ。
そして先程の説得できっと考え直してくれる。
もし考えを変えなければ、きっと彩斗と同じこの苦しみを味わうことになるだろう。
だが彩斗のように暴力を奮う痛みに耐えて戦うことができても、本当はこの痛みに耐
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ