巻ノ二十 三河入りその八
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その笑顔と人柄が惹きつけて離さない、それはどうしてかというのだ。
「人の心がわかっておられるからだ」
「つまりその相手の心を見抜き」
「そのうえで人をたらし込む」
「それを城攻めで使われている」
「だからこそですか」
「あの方は城攻めが上手なのですか」
「そうなのじゃ、城を攻めてもな」
そうしてもというのだ。
「城自体を攻めるのではなくな」
「それを守る人を攻める」
「人のその心を」
「それが、ですな」
「肝心なのですな」
「それがわかっておらねば守っても詮無いしな」
つまり陥ちるというのだ。
「攻める方もそれがわかっていれば」
「攻め落とせる」
「どの様な城も」
「そうなのじゃ、城はそうしたものじゃ」
堅固さも大事であるが、というのだ。
「人が大事なのじゃ」
「守る者達がですか」
「その者達が」
「大事なのですな」
「最もな」
城の堅固さよりもというのだ。
「守る者達こそが大事じゃ、やはり人は城じゃ」
「信玄様が仰った様に」
「人は城であり石垣であり」
「濠ですな」
「そして壁なのですな」
「拙者もわかった」
幸村は遠くそして辛いものを見ていた、かつてのことを。
「四郎様の末を見てな」
「ですか、あの方を」
「苦心して城を築かれましたが」
「そのかいなく」
「あの方は」
「人がどんどん離れていきな」
穴山信君や小山田信茂の様な家の手足というべき者達に次々と背かれてだ、武田勝頼は滅んだ。その時のことを思い出しているのだ。
「ああなられた」
「四郎様は決して無能でありませんでしたが」
「将であられましたが」
「それでも人が次々と背き」
「その結果」
「うむ、ああなられた」
武田家ごと滅んだ、そうなったというのだ。
「せめて人さえまとまっていれば」
「武田家は滅びず」
「四郎様もですか」
「ああはならなかったがな」
事実武田家は長篠での戦の後も持ち堪えていたのだ、穴山達が背くまでは。
「父上は言っておられた」
「大殿が、ですか」
「あの方が」
「四郎様を上田にお迎えしていればな」
武田家がまさに滅びようとしちえたその時にというのだ。
「お守り出来たと」
「四郎様と武田家を」
「それが出来ていましたか」
「そうであったが」
しかし、というのだ。
「小山田めが背いてな」
「あの様にですか」
「滅びられたのですか」
「あの方は」
「人がまとまらねばだ」
それで、というのだ。
「ああなってしまう、城ではないのじゃ」
「人、ですか」
「まずは」
「そういうことじゃ」
幸村は今も岡崎城を見ている、そのうえでの言葉だ。
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