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野獣
6部分:第六章
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い。私もこの街の何処かに潜んでいるのではないか、と考えています」
「そうですか」
「しかし何処かまではわからないです。というかわかっていたらこんなところにはいませんね」
「それはそうですね」
「昼に出ることはないようですからね。昼間は何処かで息を顰めているのでしょう」
「もしかすると道の隅にでも」
「怖いこと言わないで下さいよ」
「すいません」
 ガイドが怯えたふりをして言ったので僕も微笑んで謝罪の言葉を述べた。だが彼もこの街にいると思っているようだ。
 僕達はガイドと暫し別れある店に入った。そこは土産物屋であった。
「いらっしゃい」
 小柄で痩せた老人が出て来た。
「何をお求めですか?」
「そうですね」
 僕はふと日本にいる両親に土産を買おうと思った。
「これなんかいいかな」
 ふと象牙に似た白い首飾りを手にした。
「おいくらですか」
 言われた値段は驚く程安いものであった。
「本当ですか!?」
 それには僕も驚いた。幾ら何でも安過ぎると思ったからだ。
「うちは儲かる商売はしていないんじゃよ」
 その老人は口をあけて大きく笑いながら言った。歯は一本もなかった。
「わしも歳じゃからのう。家族もいないしこうして道楽でやっとるんじゃ」
「そうなのですか」
「そうじゃ。人生の最後位好きなことをしてもいいじゃろ」
 彼は腰を伸ばして笑った。声はしわがれているがかん高い。
「じゃあこの首飾り下さい」
「うむ」
「あとは・・・・・・」
 僕は奥に置いてある豹の置物に気付いた。
「あれは大き過ぎるな」
「あれは駄目じゃ。店の看板みたいなものじゃからな」
「はあ」
 僕はその言葉に答えた。
「ん!?」
 ふとその置物をよく見た。それは置物ではなかった。剥製である。
「それ剥製ですね」
「おお、よく気がついたのう」
「そりゃもう。あれだけ立派ですと」
 こちらに向けて身構え牙を剥いている。今にも向かってきそうだ。
「まるで生きているみたいですね。それにやけに大きな豹だ」
「アフリカの豹としては大きいと言われたことがあるのう」
「そうですね。シベリアの豹位はありますよ」
 動物は寒い場所にいる程大きくなる傾向がある。虎や狼等がその顕著な例だ。豹も例外ではない。
「そうか、そんなに大きいとはのう」
 彼は嬉しそうにその剥製を撫でた。何かいとおしくてたまらないようである。

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