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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十九 〜義姉妹〜
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い以上、特に変事もなし、と思っているのだが。
「どちらにせよ、今この場で全ては決められません。また明日以降に、という事で宜しいですね?」
「うむ。……では、自慢の料理を味わうとするか」
「父上、宜しいのですか?」
「言ったではないか、是非にとな。親として、子の願いを無碍にするつもりはないぞ?」
 白兎はパッと顔を輝かせた。
「はいっ! じゃあ私、注文して来ます!」
「お待ちなさい、白兎殿」
 苦笑しながら、疾風が白兎を止めた。
 そして、天井から下がっている鈴を鳴らす。
「お呼びでしょうか?」
 間髪入れずに、店主が姿を見せた。
 ……腕が立つ、というのは真のようだな。


 数日後。
 白兎が、番禺(ばんゆ)を発った。
 あまり目立った真似も出来ぬ故、私と疾風のみが見送った。
 供も僅か数名だが、役目上やむを得ぬ。
「では父上、行って参ります」
「うむ。くれぐれも気をつけて行くのだぞ。月に宜しくな」
「はいっ!」
「白兎。私の教え、無にするなよ?」
「わかりました、疾風様……じゃなくって、疾風姉様」
 一礼すると、白兎は馬に跨がった。
 その後ろ姿が、次第に遠ざかっていく。
「星も、夜陰に乗じて発ったようです。……皆の無事を祈るしかありませんね」
「そうだな。……戻るぞ」
「……はっ」
 寂しげな疾風の肩を、そっと抱いてやる。
「歳三殿……」
 疾風の香りが、私の鼻腔をくすぐる。
「……一つ、お聞きしても宜しいですか?」
「何か?」
「……白兎は私の義妹ですが。私もまた、歳三殿の娘と……?」
「そのつもりはない。お前が、それを望むのなら別だが」
「……いえ。私は娘としてではなく、一人の女として歳三様の傍にいたいのです」
「ならば、望むままで良い」
「……はい」
 疾風が、身体を寄せてきた。
 見事な月の下、その温もりを感じながら歩くのも悪くないものだ。
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