二十話:正義の形
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を押し殺して笑い続けよう。この身は道化なのだから。
大嘘をついて観客を盛り上げて見せよう。この心を犠牲にしてでも。
「家族? ただの機械が人間の真似事をしていただけじゃないか」
「あの子達は機械なんかやない! 人間やっ!!」
そんなことは分かっている。彼らが機械ならこの心はこんなにも傷つきはしない。
しかし、そのことをここで明かすわけにはいかない。
世界を守るためには少女の心を犠牲にしなければならないのだ。
ただ、思わずにはいられない。どうしてこの子なのだろうかと。
どうして犠牲になるのはいつも自分以外の人間なのだろうかと。
彼の心は血の涙を流し続ける。
「なんで…なんで、おとんがそんなこと言うんやッ! 私のおとんはそんな人やない! おとんは……私の味方やないん…?」
「目の前にあるものが全て真実だとは限らない。例えば―――君の両親の死のように」
涙ながらに叫び声を上げるはやての姿に胸が張り裂けそうになるが耐える。
そして、追い込みをかける。もう、遠慮などいらない。
真実と嘘が入り乱れようが、死者の意思を踏みにじろうが知ったことではない。
過程がどうあれ、結果にたどり着きさえすればいいのだから。
「君の両親は事故死したが、その事故は―――僕が人為的に引き起こした」
「……う…そ…」
「監視のために邪魔な者は排除するのは基本だよ。おかげで誰にも怪しまれることなく君を引き取れた。最初から最後まで計画の一部でしかない」
はやての瞳が絶望と、怒りと、憎しみが籠った瞳に変わる。
はやての両親の死が都合が良かったのは間違いないが、本当に殺してはいない。
そもそも、引き取るという行動は無駄と手間が大きすぎる。愛がなければ絶対にできない。
両親が健在であれば両親に洗脳をかけた方が早い。
両親が死んだからこそ切嗣は養父となったのだ。
誰も悲しまないように一人で暮らさせるという選択もあった。
だが、彼はそれを選ばなかった。それは彼すら気づくことのなかった後ろめたさからだ。
せめて自分だけは彼女の死に涙をしようと、誤った選択をしたのが今ここで味わっている地獄の苦しみの始まりなのだ。
それでも、彼に後悔などない。はやては切嗣にそれ以上のものを与えてくれた。
だからこそ……これから言わねばならない言葉が果てしなく重い。
「だからね、はやて。僕は君を―――愛したことなんかなかった」
耳をつんざく声にならない悲鳴。砕け落ちる心の音。
その音は果たしてはやての心なのか、切嗣の心なのか。
はたまた、両方の心だったのかそれはどちらにもわからない。
ただ一つ分かることとすれば、それは―――はやての心を絶望が覆ったことである。
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