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八神家の養父切嗣
二十話:正義の形
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 時が止まったかのように静寂だけが辺りを支配する。
 はやての頭の中を何度もその言葉が駆け巡る。―――死んでいる。
 自分の大切な家族が。もう二度と帰ってこない。
 全身から力が抜け冷たい床に頬をこすりつける羽目になる。

「シ、シグナムとシャマルは…?」
「後ろを見てごらん」
「あ……あ、ああああッ!」

 はやての甲高い悲鳴が切嗣の鼓膜に突き刺さる。
 彼女の視線の先には血だまりに沈む、シグナムとシャマルの服があった。
 言葉に表すことのできない悲痛が彼女の胸を襲う。
 誰が? 一体誰がこんなにも酷いことをしたのだ。
 少女はそんな当然の疑問を誰に向けてもなしに叫ぶ。

「誰や…誰が、私の家族をこんなんにしたんやーッ!」

 その叫びを聞きながら切嗣はもう一本、煙草を取り出して口に銜える。
 まるで心を落ち着けるように火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込んでから吐き出す。
 立ち昇る紫煙に在りし日の家庭の情景を思い浮かべ、それを振り切るように宣言する。

「僕がやったんだよ、はやて」
「………え」
「だから―――僕がみんなを殺したんだよ。この手でね」

 心底訳が分からないという顔をするはやて。
 そんなはやてに優しく、丁寧に自分が殺したのだと説明する切嗣。
 それでも、納得がいかない、否、いくわけなどないはやては首を小さく振る。

「何言っとるん……だって、おとんは……私の家族やろ?」
「折角の機会だ。僕がどうしてはやての養父になったのかを教えておこうか」

 どこまでも、底が見えない暗い闇の様な瞳を向けながら切嗣は語り始める。
 その心を分厚い氷で覆い尽くしながら。

「まず、僕は闇の書を完成させるためにはやての養父になった」
「それと……父親になることの何が関係あるん」
「闇の書は起動しない限りは蒐集すらできない。そして完成しても主にしか使えない。だから、僕は君を利用することにした」

 はやての耳に信じられない、信じたくもない話がどんどんと入って来る。
 はやての養父として常に監視を続け、守護騎士達からも信頼を得て、何食わぬ顔で完成した闇の書を横から奪い取る。
 簡単に言えば切嗣の説明はこのようなものだった。
 だが、それだけの話で彼女の心は瞬く間に軋んでいく。

「私はこんな物なんか要らん。みんなが居てくれればそれでええんよ。なのに……なんでこんなことしたん!?」
「闇の書を完成させるために必要だからさ。騎士達は最後の最後でやっと無意味じゃない行動をしてくれた」
「無意味ってなんや…! おとんだってあの子達のことを家族として思っとったろ!」

 はやての言葉に切嗣は声を上げて笑う。後もう少しではやての心は絶望に覆われるだろう。
 後少しだ。悲しみと怒り
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