第十一話「オー・シャンゼリゼ」
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った。
猛勉強は結局、無駄に終わり俺たちは一問も式を解くことができなかった。
「……で? どこがわからないんですか?」
俺は、その日の放課後に寮でわからない難題を弥生に教えてもらっていた。
「えーっと……ここなんだけど?」
「あ、これはね?」
弥生の説明はとても丁寧でわかりやすく、こんな俺でも理解できて、今まで苦悩していた難題をすべて解くことができた。
「これで、数学は大丈夫ですか?」
「ありがとう! 天弓侍さんのおかげで助かったよ……」
「あ、私のことは弥生って呼んでいいですよ?」
「そんな……いいよ?」
今まで、女の子を下の名前で呼んだことなんてない。けど、いつまでもこのままなら、相手も堅苦しそうで逆に嫌なのかもしれない……
「じゃ、じゃあ……弥生さん?」
「弥生でいいですよ?」
「じゃあ、こっちも狼って呼んでいいよ?」
「え、よろしいんですか?」
「うん、好きに呼んで?」
「では……狼君?」
「ああ、それでもいいよ?」
俺は、その後も彼女に問題を教えてもらった。どんなに時間がかかっても、弥生は丁寧に優しく教えてくれて、俺も徐々に問題のやり方を覚えていった。
とりあえず、苦手とする五教科は大方わかるようになり、そのあと勉強は終わって二人そろって休憩を取った。
「ふぅ〜……これで、大丈夫ですか?」
「うん! ありがとう、弥生さん」
「弥生でいいのに?」
「でも、女の子の名前を呼び捨てで言うのは慣れてないから……」
「私達は、大切な仲間なんですから親しく呼び合ってもいいんですよ?」
「じゃ、じゃあ……弥生?」
「は、はい……」
なぜか、二人ともそろって顔を赤くしてしまう。このままだと間が持たないし、なんだか気まずくなってしまう……
「……あ、俺何か飲み物買ってくるよ! 何が良い?」
ふと思ったことを口にして、俺は彼女に何の飲み物がいいかを尋ねた。
「え、悪いですよ?」
「いいよ? 勉強教えてもらったお礼ってことで……」
「……じゃあ、お茶をお願いします」
「お茶ね? わかった」
俺は財布を取ると、すぐさま部屋を出て行った。
「はぁ……」
そして、部屋に出て深く深呼吸をする。初めて女の子を下の名前で呼び捨てにしたのは初めてであり、少し緊張してしまったのだ。今でも、俺の心臓はバグバグと激しく鳴り響いている。
――弥生、か……
しかし、深呼吸から時期に溜息へと変わった。
「でも……」
でも……彼女には既に婚約者がいると蒼真が言っていたことを思いだす。どうせ、彼女を好きになっても無駄な話だ。それに……弥生のような可愛い娘が、俺みたいなダメ男を好きになってくれるはずもない。
「……えっと、自販機か?」
気を取り直して、俺はそんな儚い考えを忘れて自販機へ向かった。寮の自販機は一つの
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