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大切な一つのもの
6部分:第六章

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第六章

「私はこの世で最も大切なものを」
「そうです。優勝されれば」
「お任せ下さい」
 彼は立派な声で答えます。
「歌でしたら私は決して」
「誰にも負けませんか」
「そうです、私は代々歌を歌って生きてきました」
 その声自体がまるで歌声でした。
「その私でしたら」
「ではお任せしていいですね」
「落ち着いてそこで御覧になって下さい」
 こうまで言い切る程の自信でした。
「それでは」
「はい。では」
 歌の騎士は自信満々で順番を待っています。そうして順番になって歌いはじめ、終えると。もうそこには万雷の拍手だけがありました。
「文句なし!」
「これで決まりです!」
 審査員達も口々に言います。もう誰が見ても彼の優勝でした。
 こうして彼は草と花の冠を与えられ華々しい歓声に包まれました。そしてこの世で最も大切なものも与えられることになりました。
「それは一体何なのだろうか」
 彼はその贈り物が来るのを待ちながら考えていました。
「金や銀よりも大切なものなのだろう。ではそれは一体」
「お待たせしました」
 ここで街の実力者達が彼に言ってきました。そこにはザックスもベックメッサーもいます。
「ザックスさん」
 騎士はその中にいるザックスに声をかけました。
「それで最も大切なものとは一体」
「それはこれなのです」
 そう言って前に出してきたものとは。
 それは小柄で奇麗な青い目と豊かな金髪を上に編んだ可愛らしい少女でした。歌の騎士は彼女の姿を見て思わず溜息をついてしまいました。
「何と、彼女なのですか」
「そうです、今の貴方の御心がなのです」
 ザックスは彼にそう言うのでした。
「おわかりですね」
「はい、よく」
 歌の騎士は彼に答えます。
「そういうことでしたか」
「それでは騎士殿、この世で最も大切なものを」
「これで陛下に差し上げることができます」 
 彼は強い声で言いました。
「そうですか、これが」
「はい。それでは」
「ええ。それでは」
 彼は満面に笑みを浮かべました。そうして一旦帝都に戻り皇帝にそのことを伝えに向かうのでした。彼が手に入れたものをその腕の中に抱いて。

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