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大切な一つのもの
35部分:第三十五章
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。何に」
「貴方は。今まで騎士としてだけ生きてきたのね」
 今度はこう言うのでした。溜息と共に。
「それで他のことは何も知らなかったのね」
「知っているも何も」
 そう言われても騎士にはわかりません。相変わらず戸惑ったままでした。
「私が見ているとは」
「それが何かは知りたいのね」
「当然です」
 生真面目な言葉でした。その生真面目な言葉がそのまま彼の心で美女にも伝わりました。ですが美女の心は騎士には伝わっていません。
「何処にあるのか。それを手に入れるにはどうすればいいのか」
「手に入れるには」
「ええ。手に入れるには」
「目を閉じればいいわ」
 その言葉には少し苛立ちが見えます。しかし騎士はそれにも気付かないのでした。

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