31部分:第三十一章
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第三十一章
竜の騎士はただひたすら森の中を進んでいました。深い深い森の中です。
そこはかつて彼が生まれ育ち竜を倒した場所です。今彼は他の動物の言葉もわかりますしどんな武器にも身体を貫かれませんがそれは竜の血を全身に浴びたからです。つまり彼はこの森において完全な英雄となったのです。
その森だからこそこの世で最も大切なものがある、そう思った彼はただひたすら森の中を進んでいました。深く今にも妖精か魔物が出るようなうっそうと繁った森です。足元には枯葉解木の根が複雑に絡み合ってそれが上にある日差しさえ防ぐ緑の木々と合わせて魔界の様に不気味な世界を作り出していました。彼はただひたすらその中を進みます。その途中でふと枝の上で休んでいる小鳥達の声を聞いたのです。
「ねえ聞いた?」
「何をさ」
「小鳥の声か」
騎士はふと立ち止まりました。そうして小鳥達の声を聞きます。
「奥の山あるじゃない」
「ああ。あそこ?」
「奥の山」
その山のことは騎士も知っていました。草木なぞ何一つない岩山で誰も行ったことはありません。何故なら周りを炎に囲まれて誰も近付けないからです。さしもの竜の騎士もそこには行ったことはおろか近寄ったことも一度もないのです。
「あそこに素晴らしい宝物があるってさ」
「それは本当なのかい?」
「ああ、そうらしいね」
小鳥達は騎士に気付かず話を続けます。
「どんな宝物があるか知らないけれど。素晴らしいらしいよ」
「それはまた」
「古くの時代に神様の一人が何かをそこに収めたらしいんだ」
そうも言っています。
「何かまではわからないけれど」
「そうなのか。何か凄そうだね」
小鳥達はそんな話をしています。騎士もそれを聞いています。
「そうか。ひょっとしたら」
小鳥達の話を聞いてまさかと思います。
「そこにこの世で最も大切なものが」
すぐにそう思いました。竜の騎士はとても決断と行動の早い騎士です。すぐに行動に移ることにしてその岩山に向かうのでした。
岩山は麓から炎に包まれています。しかし騎士は恐れはしませんでした。
「こんな炎も私には」
彼は自分の不死身の身体を知っていました。ですから炎なぞ恐れはしなかったのです。
そのまま前を進みます。炎が身体に纏わり付きますがそんなものは全く気にしません。平気な顔でただひたすら中を探し回ります。
幾重もの炎を潜り抜けているとやがてこれまでになく高く厚そうな炎のカーテンが見えてきました。まるで全てを阻むように。
騎士はその炎のカーテンを見て思いました。若しかするとこの中に。
「どちらにしろ行く価値はある」
そう呟いて頷きました。もう決めていました。
そのまま前に出ます。そうして炎のカーテンを潜り抜けます。不死身の身体を持つ彼でなければ
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