30部分:第三十章
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第三十章
「願いは人を不幸にするもの以外なら何でもいいと」
「確かに言った」
彼は強張る顔で答えました。それは事実です。
「だが。この願いは」
「人を不幸にするものではありません」
娘の声も毅然としたものになりました。その声を兄にかけます。
「ですから」
「だがジークリンデよ」
妹の名を呼びます。顔も強張っていました。
「彼は我等が父の」
「それもわかっています」
声の強さがさらに増しまるで剣の様です。剣と化した言葉がそのまま彼を刺し貫くのでした。まるでそれで攻略せんとするかのように。
「ですがそれでも」
「だが私は」
主はそれでも拒もうとします。ですが。
「家訓の筈です」
「家訓か」
「そうです。約束は何があろうと必ず守る」
強い声を兄にまたかけます。
「だからこそ私は騎士様を」
「騎士殿」
主は妹の言葉を最後まで聞き終えたうえで騎士に顔を向けてきました。
「それでいいのか?貴殿は」
「ジークリンデ殿」
彼は主に答える前にまずは娘に顔を向けました。そのうえで彼女の名を口にします。
「御名前は。そうでしたね」
「はい」
娘は緊張した面持ちで彼の言葉に答えます。
「そうです。私の名はジークリンデ」
「ではジークリンデ殿」
名乗りを正確に受けたうえでまた彼女の名を呼びます。
「私なぞで宜しいのですか?」
「貴方だからこそです」
笑みがにこやかなものになっていました。その声で答えるのでした。
「ですから」
「わかりました。それでは」
「これは。思いも寄らなかった」
主は抱き合う二人を見て困惑した顔で呟きます。
「まさかな。ジークリンデが騎士殿と結ばれるとは」
「ですが旦那様」
ここで家の者の一人が彼に声をかけてきました。
「何だ?」
「騎士殿はこの世で最も大切なものを探しておられたのですね」
「そうだったな」
そのことを思い出します。それは彼もはっきりと聞いていました。
「では彼はそれを手に入れたのか」
「そういうことになります」
家の者は答えます。
「剣を抜いて」
「剣ではないのか」
「この世にある宝は真の意味で尊いものではありません」
言葉が哲学的なものになっていました。哲学は答えを求めるものです。今ここで求められ、出される答えといえば。
「真に貴いものは」
「今ここに結ばれたものか」
「そういうことです」
彼は主に答えます。
「仇同士でしたが。ですが」
「それもまた消え去った」
「はい」
頷いたのは二人だけではありませんでした。家の者全てが。主はそれを確かめるとすぐに大きな声でその皆に言うのでした。
「宴の用意をしろ」
「宴のですか」
「そうだ、妹の婚礼の宴だ」
こう言いました。
「わか
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