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大切な一つのもの
27部分:第二十七章
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第二十七章

「中へ」
「有り難うございます」
「礼には及びません」
 主はまた言いました。
「それが我が家のしきたりなのですから。では」
「わかりました」
 こうして騎士は屋敷の中に入れてもらいました。屋敷の中はかなり広く大きく武骨な造りをしています。広い廊下を進むとやがて大広間に着きました。
 大広間もかなり広いです。ですがその中でとりわけ目立つのは大広間の真ん中にあるものでした。
「これは」
 それは一本の大きなトネリコの木でした。何と大広間の真ん中から屋根を突き抜けて生えていたのです。それもかなり大きな木です。
「木ですか」
「我が家は変わっていまして」
 主は騎士に顔を向けてまた答えます。主の周りには多くの家の者達が集まっていました。見れば彼等も黒い服を着ており騎士を不機嫌な顔で見ているのでした。
「こうして屋敷の中に木があるのです」
「左様ですか」
「我が家の名はフンディング」
「フンディング!?」
 その名を聞いた騎士の顔が強張りました。
「では貴方達は」
「そう、我が父は帝国に対して反乱を起こしましたな」
「ええ」
 それは数年前のことでした。フンディング伯爵という老貴族が帝国と対立する隣国と手を結んで皇帝に対して反乱を起こしたのです。狼の騎士をはじめとして多くの騎士達も参加したこの戦いはすぐに終わりましたがその時伯爵は討ち死にしているのです。
「その父を討ったのは」
「私です」
 騎士ははっきりと答えました。伯爵を壮絶な一騎打ちの末に討ち取ったのは他ならぬ彼だったのです。そのことははっきりと覚えています。
「そう、確かに我が父は隣国に唆され反乱を起こしました」
 フンディングはそれは素直に認めます。
「ですが。仇は仇」
 そのうえで騎士を見据えます。
「やはり気分のいいものではありませんな」
「どうやら私は。ここに来てはいけない者のようですね」
「いえ、そういうわけでもありません」
 しかし主はそれに関しては否定しました。そのうえでまた騎士に声をかけます。
「騎士殿」
「はい」
「陛下から探しものを命じられているのですな」
「左様です」
 あらためて彼に答えます。
「この世で最も大切なものを見つけて来いと。そう命じられました」
「ふむ」
 主は騎士からそれを聞いて考える目になりました。その髭だらけの顎に手を当てて考え込みます。
「それでしたら心当たりがないわけではありません」
「それは一体」
「あれかも知れません」
 そう言ってその木を指差しました。
「あれを御覧なさい」
「あれは」
 見れば木には一本の剣が刺されていました。まるで誰かを誘うように。
「我が家が出来た時からあるもので。その時ある男が剣を木に刺したそうなのです」
「ある男が
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