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大切な一つのもの
25部分:第二十五章
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第二十五章

「いいわね。だから」
「黙って後ろを見なさい。私達は何もしないから」
「本当だな」
 念を押すように乙女達に問います。
「本当に何もしないんだな」
「そもそも何をするのよ」
「ねえ」
 乙女達は顔を見合わせて言い合います。
「あんたなんか捕まえても何にもならないし」
「美貌の王子様ならともかく」
「悪かったな、うだつのあがらない職人で」
 アルベリヒは彼女達の言葉にまたむくれてしまいました。
「これでも小人の国に行けば王の一人なんだぞ」
「だからよ、王様」
「話は聞きなさいって」
 乙女達はすぐに突っ込んで言いました。
「いいから」
「ほら、後ろ向いてね」
「わかった。それではな」
 強情なアルベリヒもようやく頷きました。するとそこには。
 小さな可愛らしい娘がいました。小人の娘です。
「おおっ、これは」
 アルベリヒは彼女の姿を見て思わず声をあげました。
「何と可愛らしい娘だ」
「アルベリヒ王よ」
 その横には炎の騎士がいます。彼がアルベリヒに対して一礼してから言いました。
「こちらの方が貴方をお慕いしておられます」
「わしをか」
「はい、御存知ありませんか」
「確か」
 言われてからその娘の顔をまじまじと見ます。見れば。
「隣の国の王女ではないか」
「そうです、貴方の隣国の王女です、その国の跡継ぎの」
「ということはだ」
「結婚されれば、愛を手に入れれば」
 ここでまた一言付け加えてきました。
「貴方の国は素晴らしいことになるでしょう。ですが愛を捨てれば」
「得られるものは何もない」
「そうです。さあ、どうされますか?」
 騎士はアルベリヒの顔をじっと見て問い掛けます。それはまるで彼からある答えを引き出すかのようでした。その答えとは。
「愛か無か」
「愛か無か」
 アルベリヒも騎士の言葉を繰り返します。そうして騎士の言葉に誘われていくのでした。そうなればもう誘われる答えは一つしかありませんでした。
「どちらを」
「わかった」
 彼も遂に答えを出しました。それは。
「愛だ」
 そう、答えはそれしかありませんでした。
「わしは愛を選ぶ。それがわしにとて最高の幸せなのだからな」
「その通りです」
 答えを導き出させた騎士はにこりと笑ってみせました。
「よくぞ選ばれました。それでは」
「うむ。もうここには何の用もない」
 王女に歩み寄りその方を抱いて言います。
「邪魔をしたな。ではな」
「ですが王様」
 騎士は去ろうとするアルベリヒに声をかけました。
「何だ?」
「この世で最も貴いもの。それについて御聞きしたいのですが」
「何だ、無粋な男だ」
 アルベリヒは彼に顔を向けて笑いました。満足しきった実にいい笑みでした。
「既に
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