麒麟を封じるイト
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々」
「や! なのだ!」
「おやおや……相変わらず幼子を誑かすのが上手いことで」
苦い吐息を吐き出した愛紗が言っても鈴々は舌を出す。星に至っては彼をからかう事にしたらしい。
新参の藍々、焔耶、厳顔は三者三様にその様子を見守るだけ。藍々は油断ならないと厳しく伺い、焔耶は受け入れられているその男を睨みつけ、厳顔は苦笑しながら彼と鈴々のやり取りを興味深く観察していた。
緩い空気が流れていた。いつでも、劉備軍を包んでしまう緩い空気が。
不純物が混ざっていても、誰も違和感を覚えない。たった一人、詠以外は。
――バカね……其処に居るのは確かに秋斗だけど、あんた達が知ってる黒麒麟じゃないってのに。
聴こえないように毒づいて、心の中で拳を握る。憐れで滑稽な道化師が決めた、ギリギリの選択を露見させない為に。
嘘を吐いて、嘘で固めて、嘘で彩り、嘘で確立する。
偽ることを嫌う彼が取った選択肢。目が覚めてから続けてきた、彼にしか出来ない演目を。
些細な違和感を与えようとも、それが明確な答えを与えることは無い。
曖昧に、誤魔化し、ぼかし切る。いつも通りに、なんのことやあらん、と。
日常で暮らす普段の笑みを浮かべる姿は、劉備軍でも曹操軍でも変わらなかった。だから分からない。
――わざわざ敵に情報を与えてやる義理は無い。
黒麒麟をずっと支えてきたのは雛里だけで、自責の罪過から守ってきたのは雛里と月と詠だけ。だから彼女達は気付かない。
――完全な敵では無く敵か味方か分からない状態の方が、俺の目的成就には都合がいい。
詠でさえ彼の本当の狙いなど知らない。
早回しのように進んで行くこの乱世で、彼が唯一恐れている事態が何かなど……知る由も無い。
――“あの場所”で戦をしなけりゃ曹操軍に負けは無く……乱世は迅速に収束する。
どれだけ早回してもその都度修正されるかのように大きな戦が歴史通り動くこの世界で、絶対に起こしたくない戦があった。
――黒麒麟が狙っているのはあの戦。俺なら絶対にその戦で覇王を倒す。劉備軍に所属して益州まで来ちまったなら、そうするしかないはずだ。
黒麒麟とは真逆の思考。覇王の敗北を回避する為に彼はいつでも思考を回してきたのだ。
裏を返せば……“もし自分が黒麒麟なら”、その戦で必ず“世界を変える”と計画するに違いない。ならば万が一、不可測の事態で自身が黒麒麟に戻り、今の自分が消えてしまったとして……せめてその戦だけは起こさないように準備しておかなければならない。
数学の証明の如く答えに至る道筋を出していたのなら……同じ答えに行き着く別の道筋も積み上げられる。
三国志の中核を担うその戦は……未来を大きく左右した、この時代で最も大きな確率収束
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