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大切な一つのもの
21部分:第二十一章
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第二十一章

「それだけって言われても」
 一人残された兵士は困り果てた顔で一人呟きます。
「このままじゃ。どうなるんだ」
 彼は途方にくれるしかありません。ですがここで一人途方に暮れていてもどうしようもありません。それで仕方なく教皇の宮殿に戻りアドリアーノに騎士の話を伝えたのでした。
「わからない」
 アドリアーノは黒い髪と瞳を持つ中性的な顔立ちの少年です。その女の子のような顔にはっきりとわかる戸惑いを見せてしまいました。
「そんなことをしても。話は」
「アドリアーノ様もそう思われますか?」
「勿論です」
 兵士と同じ顔で答えます。
「今教皇様は帝国の北の都におられて御留守ですが」
「それだからこそ。下手なことをすれば大変なことになります」
「あの方もそれを御存知の筈。それをどうして」
「ですが。ここは信じるしかありません」
 兵士は諦めきった顔でこうアドリアーノに述べました。
「この状況をどうにかできるのはあの騎士様しかおられないのですし」
「確かに」
 アドリアーノはその言葉に頷きます。その明るさが消えてしまった顔で。
「あの方しかおられませんが」
「待っていてくれと仰いました」
「この宮殿でですね」
「そうです。宜しいでしょうか」
「わかりました」
 窓の方を見ました。そこには様々な色や形をしたローマの建物が見えます。その様々な建物とローマの青い何処までも続く空を見ながらの言葉でした。
「ここは。待ちましょう」
「そうですね。あの方を信じて」
 その日は待ちました。そして次の日。
 街は朝から騒がしいものでした。何か急に雰囲気が変わりました。
「一体何だ!?」
「どうしたんだ!?」
 声は街中から聞こえています。教会も貴族達もそれを聞いて一斉に起き上がりました。
「何て酷い話なんだ!」
「こんな話があっていいものかよ!」
 見れば騒いでいるのはローマの民衆でした。皆口々に騒ぎながら貴族が牛耳っている議会と教皇の宮殿に向かっています。まるで誰かに導かれているように。
「二人に幸せを!」
「つまらない争いなんか消し去ってしまえ!」
「二人の」
 それはアドリアーノからも見えていました。宮殿の下に集まる多くの民衆を見て彼はまさかと思いました。
「それはまさか僕と」
「イレーネ様との」
 あの兵士もいました。そうして彼に言います。
「ことでしょうか」
「教会も貴族も間違っている!」
 ここで民衆の一人が叫びました。
「愛し合う二人を彼等の都合で引き裂いていいのか!」
「そんな権利が彼等にあるのか!」
「間違いない」
 アドリアーノはここまで聞いて遂にわかりました。それが自分達のことであることを。
「僕とイレーネのことだ」
「民衆が今それを」
「うん。けれ
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