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大切な一つのもの
21部分:第二十一章
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どどうして」
 アドリアーノは兵士に問います。
「こういうことになったんだろう」
「若しかして」
 兵士はここでハタと気付きました。
「騎士様が」
「僕達のことを民衆に言って彼等を味方につけたのか」
「では昨日のあれは」
「流石だね」
 アドリアーノはあらためて騎士の機知に感嘆を覚えました。
「そんなことをしていたなんて」
「アドリアーノ様、これで」
 また兵士が声をかけます。
「うん、教会も貴族もなくなる」
「ええ」
「そして僕もまた」
「イレーネ様を」
 兵士は笑顔で述べます。これもまた適えられるのです。
「教会も貴族もない!」
「そうだそうだ!」
 民衆達は言います。
「そんなつまらないことで二人の仲を切り裂いていいのか!」
「そんなことは許すな!」
「その通りだ諸君」
 民衆達の先頭には都の騎士がいます。彼が先頭になって民衆を導いていたのです。これはアドリアーノ達が予想した通りでした。
「今こそこの街の全ての対立を消し去り」
「はい!」
「忌まわしい長きに渡る対立を!」
 彼等は騎士に誘われて言います。
「消し去ろう。それにはまず」
「愛だ!」
 民衆の一人が叫びました。
「愛で忌まわしい対立を消し去ろう!」
「アドリアーノ様とイレーネ様を幸せに!」
「我々の手で!」
「そうだ。これでいい」
 騎士は議会と教会の門を開きアドリアーノとイレーネを導き出す民衆達を見ながら一人呟きます。それは晴れやかな空を見るようでした。
「これこそこの世で最も貴いものなのだ」
 彼はそれを察していました。何が最も素晴らしいのかを。彼もまたこの世で最も貴い宝を見出しました。皇帝への捧げ物はアドリアーノとイレーネとの婚礼を実現させそれにより長きに渡っていた教会と貴族の争いを終わられたことにより手に入れられたのでした。

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