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八神家の養父切嗣
十九話:Fake
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相反する感情が、理性が彼女の心を少しずつ蝕んでいく。

「そう、本当の、もっと素敵な名前があるはずだよ」

 なのはは知っている。
 闇の書は仮の名前であり、真の名前は夜天の書という素敵な名であることを。
 悪意ある改変を受ける前の姿こそが本来の望まれるべき姿であることを。
 ヴィータ達が忘却の彼方へと追いやってしまった摩耗した記憶を知っている。

「思いだせない……でも、どうして…?」

 このままでは取り返しのつかないことになるのではないかと不安が押し寄せる。
 だが、ここで引くわけにもいかないのも事実。
 何かを恐れるように震える腕を気持ちで抑えて、グラーフアイゼンを握りしめるのだった。

「シャマル、状況はどうだい?」
「お父さん!? 危ないから隠れていてって言ったじゃないですか!」
「どうしても、気になってね」

 二組が争い合っている所から離れた場所で、一人通信妨害を行っていたシャマルのもとに切嗣が現れる。
 シャマルが危険だから隠れていろと告げるが欠片も動じることはない。
 寧ろ、さらに近づいてくるばかりである。

「もう、それなら私の後ろに隠れていてください」
「いや―――その必要はない」
「―――え?」

 戦場の中でも、一際大きく轟渡る一発の銃声。
 この場にいる者達の誰もが思わず手を止め、音の出所に目を向ける。
 そこにいたのは煙草を銜えながら銃を手にする切嗣の姿。
 そして―――手を撃ち抜かれて血を流すシャマルの姿だった。

「お、お父さん?」
「君達には今から最後の役目を果たしてもらうよ」
「あああッ!?」

 何が起きたかわからずに呆然と尋ねてくるシャマル。
 切嗣はその姿にも眉一つ動かさずにもう片方の手も貫き、クラールヴィントの使用を封じる。
 さらに立てないように念入りに足を撃ち抜いて床に倒れこませ、上から踏みにじる。
 そのあまりにも容赦のない姿に、今まで硬直していたシグナムが動き出す。

「お父上、何を!?」
「バインド」

 食って掛かるように駆け寄るシグナムを、それが当然という自然な仕草で拘束する切嗣。
 シグナムの表情はただひたすらに困惑の色を浮かべたままで未だに何が起きているのかを理解できていない。だが、それは何も彼女だけに限ったことではなくなのはもフェイトもヴィータも全く状況を理解できていなかった。
 ただ一人、切嗣だけは何も映していない能面のような表情で紫煙を吐き出すのであった。


「さて、最後の役目を果たしてもらおうか―――かわいい騎士さん」


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