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大切な一つのもの
1部分:第一章
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と若いわ。ちゃんと聞こえておる」
「では何じゃ?」
 意地悪な笑みを浮かべて皇帝に尋ねます。
「わしは何を言ったのかのう」
「この世で最も貴いものじゃな」
 教皇を睨み据えて言います。
「それじゃろう」
「そうじゃ。わしが欲しいのはそれじゃ」
 教皇は意地悪い笑みのまま皇帝に言います。皇帝は怒り狂わんばかりですが教皇は至って平気なままです。それはまるで雷と風のような差です。
「あるか?」
「あるっ」
 皇帝は毅然としてまた言い返します。大嫌いな教皇に負けるつもりはありません。
「わしの国にないものはないからな」
「ふむ。ではそれを貰おう」
 教皇は笑みを楽しげなものに変えて述べます。
「それが手に入ったならばな。それではじゃ」
 さっと右手を掲げます。そうすると二羽の烏と二匹の狼がやって来て教皇を護ります。彼等を護衛として悠然と引き上げにかかります。
 ところが。ここで後ろを振り向きました。そうしてまた皇帝に言いました。
「まさかないなぞとは言わぬな」
「わしを馬鹿にするのかっ」
 皇帝はまたしても怒って言います。
「このわしを」
「馬鹿にはしておらぬよ。ただ確かめただけじゃ」
 そうやって皇帝が怒るのを楽しげに見ながら述べます。
「ただな」
 つまりはからかって遊んでいるのです。教皇はいつもそうやって皇帝をからかっているのです。それが終わるとようやく平気な顔をして皇帝の宮殿を後にするのでした。
「ええい、腹の立つ」
 教皇が去って相手がいなくなった皇帝は怒りに顔を真っ赤にさせながら玉座に座りました。そうしてそのうえで苦い顔で言うのでした。

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