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座敷牢
5部分:第五章
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第五章

「それどころかとても外に出すのも無理だ」
「それでここに」
「このことを知っているのは家の中でも限られている」
 彼はまた話す。
「何人かだけだ。いない」
「秘密というわけですね」
「いないことになっている。誰も知らない」
「けれど僕は」
「何度も言うが何時か言うつもりだった」
 また金之助に話す。気付けばであった。蔵の中は異様な匂いに満ちていた。それは何年も風呂に入っていない、まさにそうした匂いであった。
「しかし今こうして知ったな」
「すいません」
「謝ることはない。知ったのは事実だ」
 それはだというのだ。
「わかったな」
「わかりました」
 ただわかったのではなかった。そこには多くの意味があった。金之助もそれはわかってそのうえで頷いたのである。
「それでは」
「さて、出るか」
 主は素っ気無く述べた。
「いいな」
「ここをですね」
「ここには来なかった」
 主はこうも言った。
「君は来なかった」
「そして何も見なかった」
「そうだ」
 そういうことになるのだった。金之助は話を聞きながらだ。何もない、何もなかったと己に言い聞かせていた。言い聞かせてそういうことにしてしまったのである。
「わかったな」
「わかりました、そうですね」
「さて、それではだ」
 主は彼の方に顔を向けてだ。話を変えてきた。
「飲むか」
「酒をですね」
「そうだ。面白い肴を用意してある」
 階段を登りながらの言葉だった。
「それを二人でやろう」
「面白いといいますと」
「来ればわかる。舶来のものでな」
「舶来ですか」
「ついでに言えば酒もそうだ」
 それもだというのだ。
「葡萄酒だ。赤だ」
「葡萄酒ですか」
「そちらを仕入れて売ることも考えているからな。そして肴は肉だ」
「肉、ですか」
「その肉を燻製にしたものだ。どうだ」
「面白そうですね、どちらも」
 実は金之助はこれまで葡萄酒というものを飲んだことがなかった。肉も殆ど食べたことがない。それを聞けば自然に出て来ることであった。
 そうしてその蔵を出て二人で飲むのだった。どれも美味いものだった。そしてその座敷牢への扉は閉じられ蔵には鍵がかけられた。
 金之助は婿に入り家の主となった。それから長い歳月が経った。
 戦争がありそれが終わり時が過ぎた。そして残ったのは。
 家は今も造り酒屋だ。しかし日本酒以外、ワインも売るようになっていた。そして時代と共に屋敷の土地等を売り今は普通の大きな家になっていた。
 その家の今の主はだ。客からこんな話を聞いていたのだった。
「昔この家はもっと大きかったよな」
「そうですね」
 若いおっとりとした顔の男だった。その彼が客の話を聞いていた。
「今の倍以上はありましたね」

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