後ろにいる影
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「もうそこにまで来ていますよ」
「・・・・・・・・・」
僕達はそれを聞いて沈黙してしまった。確かに背筋に寒いものを感じていたからだ。
「それでは私はこれで」
彼はそう言うと懐から金を取り出してマスターに手渡した。
「これで丁度ですね」
「ええ」
マスターは金を受け取りながらそれに応えた。そして彼は立ち上がった。
「裏手は何処ですか」
「あちらです」
マスターは手で右手を指し示してそう答えた。
「御気をつけて」
「有り難うございます」
彼はそのまま店を去ろうとする。だが扉の前に足を止めて僕達に顔を向けてきた。
「一つ言っておくことがあります」
「何でしょうか」
「この後客が来ますが決して後ろを振り向いてはいけませんよ」
「わかりました」
その言葉が異様に重たく感じられた。そして彼はそう言い残すと店を後にした。
残された僕達はそのまま飲んでいた。マスターはカウンターに背を向けて立っていた。
そこで扉が開いた。凍てつくような冷気が僕達を襲った。
僕達は振り向かなかった。そこに何がいるのかを知っていたからだ。ただ冷気とドス黒く邪悪な気が後ろから感じられただけであった。そこにいる者からのものであることは言うまでもない。僕もマスターも決して後ろを振り返らず沈黙を守った。
暫くして扉は閉まった。冷気も邪悪な気も何処かへ消えてしまっていた。
「あれがですか」
「そうみたいですね」
マスターはゆっくりと顔を僕に向けてそう答えた。その顔はやはり蒼白であった。
「見たら今頃は」
「でしょうね」
最後まで言わずともわかっていた。あの冷気が何よりも雄弁に物語っていた。
それから僕達は彼に会うことはなかった。今何処でどうしているのかもわからない。だが一つだけ言える。
見てはいけないものがこの世にはあるということを。この時にそれを知った。
後ろにいる影 完
2005・5・2
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