後ろにいる影
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かってきたのです。姿を見た者を生かしておくわけにはいかない、と」
「あの」
ここで僕はまた尋ねたくなった。
「今貴方はここにおられますよね」
「はい」
「その場は助かったのですよね」
「ええ。その場は何とか逃げました。私も助手達も」
「よかったじゃないですか」
「その時はね」
マスターの言葉に力なくそう答えた。
「本当に。その時だけでした」
声がさらに暗いものとなった。
「私達はその場から逃げ去りました。それで難を逃れたと思ったのですが」
カクテルを握る手が震えていた。恐怖からくるものであることは明らかであった。
「数日後助手が一人死にました。自分のアパートで」
「急に、ですか」
「はい。友人が訪ねたら死んでいたそうです。恐怖で顔を凍りつかせて」
「何かあったのですね」
「おそらくは。そして次の日には助手がもう一人。今度は夜の公園のベンチで。やはり恐怖で凍りついた顔でした」
「二人も、ですか。僅かの間に」
「ええ」
彼の声まで震えてきた。
「そして次の日にはまた一人。今度は私の研究室ででした」
「研究室で、ですか」
「はい。私が部屋に入った時彼はまだ何とか生きていました」
「それでどうなりました?」
僕もマスターももう耳を離すことはできなくなっていた。そして彼に問うた。身を乗り出していた。
「彼は私に話してくれました。鬼にやられた、と」
「あの鬼に」
「ええ。そして私も狙われている、と。逃げて欲しいと。その時でした」
「その時・・・・・・何が」
「鬼がいたのです。部屋に」
「部屋に」
「はい」
彼の顔は完全に白くなっていた。それでも言葉を続けた。
「部屋に立っていました。そして私を見据えていたのです。そして」
「そして」
僕達はまた問うた。問わずにはいられなかった。
「私に対して言いました。最後は御前だ、と」
「最後は」
「そして私に襲い掛かって来ました。私はその場を走り去りました。そしてその場は運良く逃げることができました。ですが」
「それで終わりではありませんでしたね」
「ええ」
彼は答えた。
「鬼は私を追ってきました。何処に行っても鬼は私を追ってきました。私を殺す為に」
「それは今もですか」
「はい」
彼は答えた。
「私は今も逃げていますから。あれから何年も経っているというのに鬼はまだ私を追っているのです」
「何年もですか」
「一つの街に三日といたことはありません。鬼は私を何処までも追ってきますので」
「この街にも、でしょうか」
「当然です」
それを聞いた時僕の背筋に寒気が走った。そして何かが来ようとしているのを察した。
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