後ろにいる影
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た話を続けた。
「それでですね」
「ええ」
「私はそれを馬鹿にしまして。中に入りました」
「お一人でですか?」
「助手達と一緒にです」
彼は答えた。
「その中は陵墓でした。副葬品がすぐに目に入ってきました」
「どんなものがありました?」
「鏡やそういったものです。どれも中国からのものでした。そして棺の前にはまたあの文がありました」
「漢文で」
「そうです。やはり警告でした。何かを封じているような。けれど私はそれをまた笑いました」
「あの」
そこで僕は気になっていたことを問うた。
「こうしたことは考古学においてはよくあることですか?」
「そうですね」
彼は考えながら答えた。
「あまりないかも知れません。少なくとも私ははじめてでした」
「そうですか」
「はい。それでですね」
「はい」
また話が戻った。
「私は棺を開けました。そしてその中を覗きました」
「誰が葬られていましたか?」
「鬼でした」
彼はそこで沈んだ声でそう答えた。
「鬼?」
「はい」
彼は頷いた。
「鬼がそこにいたのです」
「鬼といいますと」
マスターがそれを聞いて彼に問うた。
「あれですよね。角が生えて金棒を持っている」
「あの鬼ではありません」
彼は首を横に振った。
「あれ、鬼はあれだけじゃないんですか?」
「点鬼簿というものを御存知ですか」
「ええと」
僕はそれを聞いてとあるものを思い出した。
「確か芥川龍之介の小説にあったような」
末期の作品だっただろうか。当時の芥川の異常な精神状況の中で書かれた作品でありかなり暗鬱な作品だったと記憶している。彼の自殺する前の作品は暗鬱なものか狂気を感じさせるものかの二種類しかないように思える。
「そうです。あれは一言で言うと閻魔帳という意味です」
「そうだったのですか」
忘れてしまっていた。僕はそれを聞いて思い出した。
「それで死んだ人のことを鬼籍に入ったといいますね」
「ええ」
「これは元々中国の言葉なのです」
「中国の」
「中国では霊のことを鬼というのですよ」
「ああ、確かそうでしたね」
僕はそれを聞いてようやく思い出した。
「あちらではそれで色々と話がありますね」
「御存知でしたか」
「というか思い出しました」
「ならこれでお話がし易くなりましたね」
彼はそれを受けてこう述べた。
「それでその鬼ですが」
「はい」
「そこには鬼がいたのです」
「死人という意味ではなく」
「はい」
彼は答えた。
「そこには鬼がいたのです。そしてそれが」
彼の声が震えてきた。
「私達に襲い掛
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