後ろにいる影
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また一つ開けたような気になった。この時カクテルの中の氷が割れる音がした。その音が店の中に響く。
「古墳はね、ある村の外れになりました。本当に誰からも忘れられるような場所に」
「離れた場所に、ですか」
「ええ。民家から離れて。まるで意図的に離れているかのようでした」
無気味さを感じずにはいられなかった。それはどういうことであろうか。
古墳は場所を選ばないというか何処にあるのかわからないものだ。気付かないうちにその上に家を建ててしまうことすらある。家を建てようとしたらそこに古墳が出て来て建てられなくなってしまったという話もある。
「それでも私は掘りました。助手達を連れて」
「はい」
「文献を見ながら何日かかけて。そして遂にその陵墓を見つけたのです」
その中にこそ遺跡が多量にあるのである。副葬品は重要な遺跡であった。
「私はそれを見てやった、と思いました。そのすぐ後までは」
「何かあったのですか?」
僕もマスターもそれに問うた。
「ええ。陵墓の前に文字があったのです」
「あの」
僕はそれを聞いて妙なことに気付いた。
「古墳に文字、ですか」
「はい」
彼は答えた。
「あの時代に文字はなかった筈ですが。ましてや古墳に使われているなんて」
「それは中国の文字でした」
「中国の」
「ええ。当時の漢字を使って。それなら納得して頂けるでしょうか」
「ううむ」
それでも妙に感じずにはいられなかった。何故古墳に文字があったのだろう。
「それは封魔の文字でした」
「封魔の」
「はい。ここに魔物を封じてある、と。そう書かれていました」
「それではその古墳は魔物を封じていたとでもいうのでしょうか」
「その通りです」
答える彼の声がさらに暗くなった。
「あの時それを真面目に受け取るべきでした」
声に後悔が滲んできた。
「本当にそう思います」
そう言いながら彼はここで後ろをまた見た。
「もう少し時間がありますね」
そしてこう述べた。やはり何かあるようだ。何故後ろをそこまで気にするのかはわからなかったが。
「私はその時それを見ても何も思いませんでした」
「そうなのですか」
「いえ、それを一笑に伏しました。ほら、ツタンカーメンのお話がありますね」
「ええ」
僕もマスターもその話は知っていた。
「ファラオの呪いでしたよね。けれどあれは」
「ええ。実際は単なる偶然でしょう。そんなことを言っていたら考古学はできませんから」
「でしょうね」
古墳にしろピラミッドにしろ墓である。墓を暴くのが駄目ならばそんなことは一切できはしないだろう。
「それはわかります」
「はい」
彼はそれを受けてま
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