後ろにいる影
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みたいですからね」
僕はそう答えた。
「どうも飲むのと酔うのが好きで」
「気持ちが楽しくなるのは事実ですね」
「はい」
「それはそれでいいですよ。ただ大人の飲み方も知ってくれたらなあ、と。どうでしょうか」
「今はちょっと」
もしかするとこうした店には本質的に向かないのではないかとふと思った。
「やっぱり飲みたいです」
「お若いですからね」
「甘えさせてもらうとそうなります。けれどお酒の味はわかっているつもりですよ」
「そうでしょうか」
「それじゃあ」
ここでスクリュードライバーをあけた。それから注文した。
「ジントニックを」
「わかりました」
マスターはそれを受けてカクテルを作りはじめた。見事な手つきでそれを作っていく。すぐに僕の前にカクテルが一つ出された。
「どうぞ」
「はい」
無色で透明の透き通った感じのカクテルが目の前に出て来た。僕はそれをゆっくりと手にとった。
そして口につける。口の中に炭酸の刺激とライムの酸味が漂う。それがたまらなかった。
「どうですか」
「いやあ」
僕はカクテルから口を離してそれに答えた。
「いいですね。何か口の中がすっきりします」
「それはよかった」
マスターはそれを聞いて顔を綻ばせた。
「このカクテルはちょっといつもとは作り方を変えたのですよ」
「といいますと」
「レモンを多くしました。普段より酸味が強いでしょう?」
「ううん」
残念だがそこまではわからなかった。そもそもそうそうジントニックばかり飲んでいるわけではない。言われてみればそうかな、という程度の実感しかわかなかった。
「そうですかね」
「おやおや」
マスターはそれを聞いて少し呆れた声を漏らした。
「おわかりになりませんか。この繊細な工夫が」
「すいません」
「まあいいですよ。おわかりになられる日が来ます」
「はあ」
「まあ飲んで下さい。どうせ今日は貴方の他は来られないでしょうし」
だがそれは外れた。マスターもお酒のこと以外は案外読みを外すものらしい。
「どうも」
扉が開いた。そしてそこから一人の男が入って来た。
「いらっしゃい」
マスターはその男に声をかけた。男はボルサリーノにトレンチコートを着ていた。何かこの店にやけに合った服装の男だと思った。それ以上に妙な事に気付いた。
「傘でも差していたようには見えないが」
どうやら傘もレインコートもないようだ。この店の傘置きは入ったところのすぐ横にある。だが彼はそこには目もくれなかったからである。
だが彼は全く濡れてはいなかった。それが不思議で仕方なかった。どういうことかと思った。
「あの」
考えてい
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