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伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚
第八話(上) 苦難と心と
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―3月30日 午前8時頃 エンジュシティ カネの塔敷地内―

 エリカは、立ち去ろうとするレッドの背後より躊躇しながらもそっと己が身を委ねた。
 彼自身、最初は何が起こったか把握できずにいた。
 しかし、委ねられた瞬間より感じる彼女から発せられるかぐわしき香り、そして何より全てを受容するような服を通じての体の温かさから漸く彼は彼女より抱き寄せられた事を感じ取ったのである。
 レッドにとってこのような経験は初めてである。幼少のころ、母親に甘えていた覚えはあっても、妙齢の女子の肌をじっくりと感覚として味わった事は彼の記憶にはないからだ。
 レッド当人にとっては嬉しさと共に大きすぎる刺激となった。彼は彼女にそれを悟らせまいと

「どういうつもりだ」

 と、声だけは毅然そうに取り繕った。
 エリカは姿勢を維持したまま、感情のこもった声で話す。

「嫌です。それに、わたくしは無理などしておりませんわ」
「なんでだよ……。お前、マツバさんと話しているときの方が楽しそうだったじゃねえか!」

 彼女はその言葉に対し、ハッとしたかのような表情になる。

「マツバさんに対して少々好意的に接しすぎたのは、貴方にとって不快に映ったかもしれません。しかし、私は特にマツバさんに好意や特別な感情など抱いては……」
「分かってる。だけどな仮にも夫である俺の前であんなにイチャついてた……。不安になるんだよ。もし……もしもマツバさんが本気でエリカの事狙いにきたらと思うと……」

 レッドはそれが”もし”でなくなる可能性があることを知っていた。その為か、いささか声が震えている。その言葉を聞いたエリカはキッとレッドの首あたりを見つめ、少しだけ抱き締めを強くする。

「なにを仰せになるのですか……。私はそんな安い女ではありませんわ!」
「それも分かっている。だけど、いざマツバさんから告白されたら、お前はその場では断りきるかもしれないが……自然と意識して俺と比べるようになるんじゃねえかって」
「決して左様な事は致しませんわ! 貴方は貴方。マツバさんにはマツバさんの良さがあります。それをいちいち比べるなどというのは無意味ですし、それに……」

 彼女はそこまで言うと口籠る。恥じているのだろうか背中のあたりがにわかに暖かくなるのをレッドは感じていた。

「それに……なんだ」

彼女はレッドの問いかけにしばし間を置いた後、返答する。

「私は、そのマツバさんの良さよりも貴方に……その、惹かれたからこうして職を休んでまで貴方の旅路を共にしているのです。どうかそれを分かって……」
「それはお前、俺と旅をはじめた時点ではマツバさんの事大して知らなかったからだろ。わざわざ連絡先交換したのが何よりのあか……」

 レッドが話している最中
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