4部分:第四章
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
田の言葉の調子は松本とは違う。しかしシニカルなのは変わりがない。
「それで犯人庇うふりして自分達のやりたいようにやるっていうのはね。権力者のすることですね」
「人権っていうのは強いんだよ」
松本のぶしつけな言葉は変わらない。ここでもだ。
「それこそ法律よりもな」
「法律よりもですか」
「人権はな。何よりも大事だそうだな」
松本の声に今度はシニカルさが加わった。
「だから奴等は必死に頑張るんだよ」
「そうですか。それじゃあ」
ここで金田はあらためて思うのだった。彼にとっては実に不愉快なことを。
「被害者、あの女の子の人権はどうなるんですか?」
「あの娘のか」
「助かったからよかったようなものの。一歩間違えていればそれこそ」
「あのな」
松本は金田のその言葉に対して反論してきた。
「はい!?」
「大事なのは加害者の人権なんだよ」
もうシニカルという卵の薄殻を被せることなくダイレクトな感情を出しての言葉になっていた。忌々しげなものと憎々しげなものを同時に見せて話す。
「死んだ人間の、被害に遭った人間のはどうでもいいんだよ」
「おかしな話ですね」
「それが人権派の人権ってやつだ」
その忌々しげなものと憎々しげなものを同時に見せて語る。
「わかったな。まああいつの裁判は」
「どうなりますかね」
話の焦点がそこに移る。その『人権派』とやらの主戦場に対して。
「頭がおかしいってなれば無罪になるな」
「無罪ですか」
「他にも理由は色々とあるさ」
そう感情を露わにした言葉を続ける。
「それで無罪になるかもな」
「洒落になりませんね。キチガイが無罪放免ですか」
「それも世の中ってやつさ」
言葉にまた別の色が加わった。達観という色が。
「嫌な話だけれどな」
「まあ真っ当な裁判になればいいですけれどね」
金田は自分の言葉を全く信じてはいなかった。だからこそその言葉の響きも実に空虚なものになっていた。しかしそれも気にはしていなかった。
「祈るだけ祈りますよ」
「そうだな。じゃあ今は引き上げるか」
「何処行きますか?」
「駅前のあそこへ行こうか」
「あそこですか」
二人の行き着けの居酒屋である。チェーン店であり横浜にも何軒もあるのだ。彼等はその中の一軒に入ってよく飲んでいるのである。
「あそこでいいだろ」
「そうですね。とりあえず俺達の仕事は終わったし」
「それを祝おうな」
「わかりました」
そう言葉を交えさせてから仕事場を後にした。なおこの赤い靴を狙った不審者の裁判は加害者が自律精神失調の状態にありその他にも様々な理由が後付されて結果として無罪になった。そして無罪になったその加害者が今度は本当に殺人事件を起こしたのは無罪判決から僅か一週間後のことであった。今度も赤い靴
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ