第6章 流されて異界
第129話 白昼夢
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信じられない、と言う表情で俺――おそらく、この記憶を庚申塚へと封じ込めた人物の顔を見つめる侍。
いや、侍と言っても、別に髷を結って居る訳ではない。まして月代を剃っている訳でもない。本来は烏帽子を固定する為に必要な髷が結われては居らず、長い黒髪を振り乱した姿は正に落ち武者に相応しい姿形であった。
周囲には澱んだ水の臭いと、鬱蒼とした山、枯れた下草の臭い。
そして、これだけは非常に嗅ぎ慣れてしまった――鉄臭い、と評される臭い。
差し込まれた直刀がゆっくりと引き抜かれると同時に、赤黒い液体が吹き出し――
そして、今まさに事切れようとした侍――
突如、乱れる映像。事切れる瞬間に何かを叫んだ侍。しかし、既に声は聞こえず、更に、映像にもふたつの赤い何かが重なるように……。
☆★☆★☆
奥羽の山々より吹き寄せる冷たい風。その風が起こす灰色のさざなみが、池の上を静かに走って行く。
世界は変わらず。ただ、ここに辿り着いた時よりも黒く感じる池の水面が、さむざむとした鏡面を氷空に向けて開けているかのように感じられた。
そう、それは正に別世界への入り口の如くに……。
「ねぇ――」
最早慣れっこに成って仕舞ったこの問い掛け。どうせ俺は説明するぐらいしか役に立ちませんよ。
まぁ、取り敢えず、聞いてくれるだけでもマシなのですが。
「今の映像が、その三尸とか言う虫に見せられた記憶だって言うの?」
ハルヒの問い。ただ、弓月さんの方も同じように疑問符が多い雰囲気ですので……。
映像……。確かにそう表現しても間違いではないでしょう。ただ、この場所の何処を探しても、その映像を映し出すスクリーンもなければ、モニターもない。まして、携帯電話に映し出された訳でもない。
あれは俺たちの脳に直接送り込まれた記憶。この記憶の持ち主の経験を追体験させられた、と考えた方が無難でしょうか。
「多分、そうなんやろうな」
かなり曖昧な答え。ただ、他のタイミングで三尸召喚の術を行使した事がないので、絶対にそうだとは言い切れないので……。
もっとも、そうかと言って、ハルヒから三尸を呼び出して試して見る訳にも行かないので、この曖昧な部分については仕方がないでしょう。
「遥任国司や目代。その他の情報から平安時代……と考える方が妥当か」
ただ、蝦夷の生活は稲作などの農耕は行われず、基本は狩猟採集だったと思う。故に、阿弖流為などが抵抗を試みても圧倒的な戦力の前に押し潰された、と言う歴史が作り上げられたはず、ですから。
確かに東北地方、それも朝廷の支配領域では少しずつ稲作も行われるようになって居たと思いますが、それでも東北地方の気候では稲作……水田による
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