第6章 流されて異界
第129話 白昼夢
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博物館なども存在していないので……。
目立つ物と言えば、この石碑ぐらいか。
そう考えながら、池の畔に立つ大きな石碑に視線を向ける。
大きい、と言えば大きい。青い、おそらく青石と一般に呼ばれる石だと思われる石碑の部分は綺麗な状態が維持されているが、しかし、その土台と成って居る部分には苔が目立っていた。そして、その平たい表面には、この手の石碑に必要な文字や絵が刻み込まれている訳ではなく、ただ平らな面をコチラに向けているのみであった。
時間の経過と共に摩耗して行き、結果、最初に刻まれていた文字や絵が消えて仕舞った可能性が多少なりともあると思うが……。
普通は、ここに銘文なり、絵なりが刻まれているはず。それによって、この石碑の由来が分かるはず、なのですが……。
それとも、マジで、この場所に何かが封じられて居る、とでも言うのか?
手詰まりか。そう考え、正体不明の石碑から、相変わらず何故か巫女さん姿の弓月さんに視線を移す俺。土地神を召喚出来れば、この辺りの因縁話も詳しく説明をして貰えたはずなのですが……。
俺の視線に気が付いたのか、小さく首肯く弓月さん。何故かその瞬間に、フンっと言うやや強い鼻息と共に視線を在らぬ方向に向けた少女が居たのですが……。
コイツは素直に無視。
「この石碑……塚に纏わる伝承は――」
何が面白かったのか不明なのですが、少しの笑みを堪えるように話し始める弓月さん。ただ、その内容は……。
昔……。ここの山に城が築かれていたのは戦国時代まで、だと言う話ですから、おそらく戦国時代の話だと思いますが。
戦に敗れた侍の集団が、この地まで落ちて伸びて来た事があるらしいのですが……。
ただ、その落ち武者たちはこの地まで落ち伸びて来たけど、追っ手も直ぐ近くにまで迫って来て居たらしく。
最早、これ以上、落ち伸びる事は不可能と考えた一同が……。
この池の畔で全員自刃して果てた、そうです。
「流石にこの事を不憫に思った地元の人間が、自刃した侍たちの霊を慰める為に。でも、彼らは追っ手がかかる身であった為に、銘文を刻まない石碑を立てて奉った」
……と言う伝承がこの辺りに残っているそうです。
筋は通っている。それに、この話が事実ならば事件の最初の死者……蘇芳優がここで自殺した理由も何となく理解出来る。
ただ、これでは少し弱いような気も……。
それに城にこれほど近い位置まで無事に近寄って来られた、と言う事も疑問。城主はもしかするとその落ち武者たちを受け入れる心算があったんじゃないか、とも思えるのですが……。
上空に視線を移し、そして、そこから周囲を見渡して見る。俺たち以外に人影はない。しかし、周囲の雰囲気は穏やかな冬の休日。多少の寒さは感じるが、その中
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