掛け違えた祈り
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て嘆く。
かつて全世界を震撼させた脅威は既に無い。誰もが解放の喜びに満ちている。
ならば何故。どうして人間同士が争っているのか。
幼い者や老いた者を見下し、自分の物だと領域を主張し、他人が作り育てた物を平然と奪う。
子供にはその行動と思考が理解できない。
だから、問い続けた。
泣きながら世界に吼えた。
『なら、お前が世界を導けば良い』
子供にだけ聞こえた声が、子供の叫びをピタリと止める。
よく知った声。数年前から聞こえる……落ち込んだ時も笑っていた時も、ずっと一緒に居た声。
『護りたい物を護れば良い。俺を呼べ。お前が望む世界を、お前に与えてやろう』
「レゾ……」
男の声はずっと、子供に甘い言葉を囁いてきた。
そう思うならそうすれば良い。願うなら願うままに行動すれば良いと。不気味なほど静かに子供を揺さぶり続けた。
子供はそれを拒んできた。
この声はきっと良くないモノ。耳を貸してはいけないと、頭の奥から感じる警告に従って首を横に振り続けた。
たまに物を隠されたり、知らない場所に連れて行かれたりした。それはとても楽しかったが、決して彼の言葉に頷きはしなかった。
……これまでは。
「……貴方は私に、何を望むの?」
誰も居ない虚空を見上げて問う子供に、声は答える。
他の誰も答えない子供の問い掛けに、男の声だけが答えた。
『俺の望みは、お前自身』
「私……?」
『お前が持つ、お前の総てが欲しい』
胸の奥が どくん と強く脈打つ。
実の親も育ての親も友人も、これから先の生き方も。何もかも全部失った子供を、それでもなお欲しいと告げる声に……喜びを感じた。
良くないモノだ。触れては駄目。求めてはいけない。信じたら絶対酷い目に合う。殺されるかも知れない。応えちゃ駄目。
……ああ、でも。
もし本当に、今のこの悲しい世界を変えられるなら。救えるのなら。
殺されても良い。
嘘でも自分が欲しいと言ってくれた彼になら。孤独から護ってくれていた彼になら。
それでも、良い。
「……どうすればいいの?」
『契約を。お前に世界を与えよう。お前は女神として願うままに世界を導け。成就の対価は、お前の総て』
なんて甘美な囁き。なんて非情な誘惑。
どちらにしても欲しいと思う物ばかりが提示されて否と断ち切れる余裕など、子供には残っていなかった。
答えは一つしかない。
「私は……私は、誰も不当に殺されたりしない、奪われたり奪ったりしない、優しい世界が欲しい! 争いなんか必要無い、皆が優しくいられる世界が欲しい!」
一時でもその場所を私にくれるのなら、殺されたって構わない!
子供は叫ぶ。
世界が平穏な循環に包まれますように。誰も不当な悲しみに襲われたり
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