間章U
想いに咲く花
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。」
これにはクレープスもフィリップも驚きを禁じ得なかった。この目の前に浮かぶ奇怪な生物を、人が創り出したと言うのだ。
二人は思考を纏めようとしたが、何をどうして良いらや分からなかった。
そんな二人にリトは振り返り、彼らに言った。
「またせたな。この姿ではなんだ、本来の姿をお見せしよう。」
そう言うなり眩い光でリトが包まれたかと思うと、次の瞬間…そこには背の高い黒きマントを羽織った男性が現れた。その手には美しく装飾された長剣を持っている。
「我は時を司る者、生と死を見守る者、神を讃えし者である。」
彼こそが、時の王リグレットその方である。
伝承に寄れば、時の王は青年のみならず、少女、老人などにも姿を変えて現れると言われている。
なぜその様に現れるかは記されておらず、大地の女神エフィーリアとは異なり、人前に本来の姿を現すことは稀である。
しかしながら、今のクレープスらはそのようなことは知らない。ただただ、恐れおののいて平伏すのがやっとであった。
「我にひれ伏して拝んではならない。原初の神にひれ伏すがよい。」
時の王はクレープスらにそう言うと、再びクラーケンに向かって言葉を発した。
「我、神の代行として命ず。汝らは北方の海を住処とすべし。そこにある火の水を北方の民にもたらし、共に北方の海を守護すべし。」
時の王がそう命ずると、クラーケン達は静かにその姿を海中深くに消して行き、二度とその姿を現わすことは無かった。
ここで言われた“火の水”とは、今も何を指して言ったのかは定かではない。それは、北方にある大陸に渡ることが、事実上困難なためであることに他ならない。
さて、クラーケンのことを片付けた時の王は、再びクレープスらに向かった。
「わざわざこのようなことに付き合わせ悪く思う。代わりと言ってはなんだが、我妻の花を与えよう。」
そう告げられた刹那、クレープスの手の中に白き薔薇があった。
それに驚いた二人は時の王を見上げると姿はなく、そこは最早…海の上ですらなかったのであった。
二人が気付いた時には既に、故郷の村へ戻って着ていたのである。
「人よ聞け。汝らの強い想いが、その奇跡をもたらしたのだ。原初の神が汝らを憐れみ、我を汝らのもとへ遣わしたのだ。その花は、汝らの想いが咲かせた花。その想いこそ、汝らの愛する者を救うのだ。さぁ、行くがよい。」
その声は、そう告げるともう響くことはなく、後にはクレープスとフィリップだけが残されていた。
二人は神に感謝の祈りを捧げ、急ぎ彼女の家へと向かったのであった。
この話しには、女神は一度も現れてはいない。その代わり、時の王リグレットが登場しているのである。
これが時の王リグレットを奉ずるリーテ教の聖典に由来していることも関係しているのであろう
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