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SNOW ROSE
間章U
想いに咲く花
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彼は、もう幾度も女神の島へ渡っている様であるが、クラーケンのことについては何一つ話してはいない。
 勿論、彼を信用していないわけではないが、時に不安になるというものである。
 それを払拭すべく、フィリップはリトに尋ねてみた。
「なぁ、君はクラーケンを見たことはあるのか?」
 フィリップがそうリトに聞くや否や、突然海が荒れ出したので、フィリップは船体にしがみついた。
「お出ましのようだな。」
 リトは何ともないと言う風に呟いた。
 後方にいたクレープスは船体に掴まりながら、船の前方へと歩み寄り、リトの傍まで着て言った。
「何事なのだ?空は快晴にも関わらず、こんなに海が荒れるとは!?」
 リトはただ苦笑いしている。どうやら例のクラーケンの仕業らしい。
 しかし、クレープスとフィリップにはどうして良いやら分からず、兎に角、振り落とされぬ様に船にしがみついているしかなかった。
 だが、リトは何としたこともなく、一人平然と船の上に立っていたのであった。
「姿を見せよ!」
 リトは一言、荒れる波間に向かって言い放った。
 そうするや、如何なることか波は穏やかになり、船にしがみついていた二人は、漸くして立ち上がることが出来たのである。
「こ、これは一体…!?」
 立ち上がって海を見ると、そこにはクラゲともイカともつかぬ巨大な生物が、海の中に数十匹程群れで漂っていたのである。
 中の一匹はこの船よりも大きいものだったので、その姿に二人は恐れを抱いた。いつ襲ってくるかも知れぬ生き物である。危機感を抱くのも止むを得まい。
 そのような生き物に対し、リトは凛と言い放った。
「我妻を奉る島の海域で、何故に人を襲うか!汝らは深海に在るべきもの。ここは汝らの領域に在らず!」
 何を言っているのか、クレープスらは理解に苦しんだ。それだけならいざ知らず、今度はクラーケンが言葉を発して答えたのである。
「時の王よ!我らが住処は人の血で汚されたのだ!遠き彼方より流れ着き、我らはここまで安らげる場を求めて来たのだ!」
 時の王…。クレープスはその名に聞き覚えがあった。大地の女神エフィーリアの夫にして、時を司る力を持つ男神である。
 しかし、なぜここでその名が出てきたのであろうか?クラーケンはリトに向かって何故か…その名で呼んでいるのだ。フィリップは隣で唖然としている。
「汝らが住むべき海を、我が与えよう。しかし、その代価として人を助けることになる。」
 この言葉に、クラーケンは動揺していた。
「なぜだ!?我らは人に追われたというに、何故に人を助けねばならぬのだ!?」
 かなり人間を憎んでいる様子が窺えたが、次に告げられた言葉に、クラーケンは口を閉ざしてしまったのであった。
「人の心が汝らを創り出したのだ。本来、汝らは人に仕えるべき存在である
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