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SNOW ROSE
間章U
想いに咲く花
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を制した。
「金はいらない。」
 リトの言葉に、二人は困惑した。魔の海域に船を出すと言うのに…金を要らないと言うのは、逆に不信を抱かずにはいられないのが道理だろう…。
 そこでフィリップが真意を確めるべく、リトと名乗った青年へと問い掛けた。
「では…何か望みでもあるのか?代価無しに乗せてもらうわけには行かないだろう?」
 それを聞くや、リトは可笑しげに笑ったのである。
 それには流石にクレープスもフィリップも困惑してしまい、ただ呆然と彼を見ていたが、すぐにリトは理由を話してくれたのであった。
「金がいらないってのは、ものはついでと言うやつだ。俺もあの島に用があって、明日にでも船を出す予定だったんだ。そこへあんた方の噂を聞いて探しだしたってだけなんだよ。」
 何とも不可思議な話しであった。
 一体…如何なる理由であの女神の島を訪れようというのか知りたくなったクレープスは、リトにそれとなく問い掛けてみた。
 クレープスに問われたリトは、ニッと白い歯を見せて直ぐに返した。
「好きな人が住む場所へ、行かぬ男はいないだろ?」
 行くのが当たり前だと言わんばかりに、リトは彼らにそう言い切ったのである。
 それを聞いたクレープスらは、リトを信用に足ると確信したのであった。
「ところで、あんた方は何しに行こうというんだ?」
 今度は逆に問われたので、クレープスは今までの経緯をリトに語った。
 クレープスの話を聞くと、リトは顔を曇らせて言ったのである。
「確かに、あの島にゃ白薔薇が咲いてる。だがよ、そう簡単にゃ踏み込めねぇ深い谷間にあるんだぜ?それでも行くってのかい?」
 リトの話を聞いても、クレープスの決意は揺らぐことは無かった。無論、フィリップも同様である。
「それでも構わない。是が非でも連れていってほしい。」
 隣ではフィリップも頷いて意思表示をしている。
 二人の意思の固さを確認すると、リトは微笑んで力強く言ったのであった。
「ああ、任せろ。」

 海は穏やかな様に見えた。
 遠くには、うっすらと女神の島の影が浮かび上がっているが、まだまだ到着までには掛かりそうだった。
 空は青く、その中に海鳥が飛び交い、太陽の輝きが海面に乱反射していた。
 リトは手馴れたように舵を操作し、まるで風を操っている様にさえ感じる。
「後どのくらいで着くんだ?」
 フィリップがリトに尋ねた。
「後二、三時間…と言ったとこだろう。」
 リトの船は小型だ。せいぜい七・八人程度が乗り込める程の大きさしかない。
 だが、帆の扱いが巧いのか、スピードはかなり速かった。
「今日は風が出てくれて、思ったよりも早く着きそうだ。」
 リトは一人呟いた。それは近くにいたフィリップには聞こえたが、そのリトの言葉に、フィリップはふと思った。
 
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