巻ノ十九 尾張その九
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「それでじゃ」
「まだ敵でない方は」
「そのまま通される」
「そしてご領地もですな」
「見ることを許されますか」
「うむ、殿の政を見せたいともお考えじゃ」
家康自身のそれをというのだ。
「そして徳川家自身もな」
「その武も」
「武もお見せしてですか」
「真田家は徳川家には勝てぬ」
「そのことを幸村殿に見せるのですか」
「そうじゃ、徳川家は今や大身になった」
三河、遠江、そして駿河の三国を完全に収め信濃と甲斐も次々と組み入れている。百万石を優に越える様になっている。
「それに対して真田は十万石じゃ」
「百万石以上の徳川家に対して」
「その百万石以上の力もですな」
「幸村殿に」
「あえてお見せしたいともじゃ」
家康は考えているというのだ。
「だからじゃ」
「あの方をお通しする」
「何もせずに」
「そうじゃ、だから我等もじゃ」
伊賀者達もというのだ。
「何もせぬ。よいな」
「はい、それでは」
「我等は幸村殿ご一行には何もしませぬ」
「指一本触れませぬ」
「それこそ」
声の主達も服部に約束した。
「殿のお言葉ならば」
「そうします」
「殿は素晴らしき方じゃ」
服部は瞑目する様にして家康のことも語った。
「律着なだけでなく徳が違う」
「他の御仁とは」
「全く、ですな」
「その徳があるからな」
それでというのだ。
「天下人にも相応しき方じゃ」
「はい、そこまでの方ですな」
「百万石以上の器の方」
「天下人にもなれるまでの」
「そうじゃ、しかし殿には今のところそのお考えはない」
天下を目指すというそれがというのだ。
「望むのはあくまで信濃と甲斐だけじゃ」
「国を、ですな」
「より多くの国を手に入れられたいだけですな」
「少なくとも今はな」
この時の家康はというのだ。
「天下人まではな」
「とても、ですな」
「考えておられませんか」
「天下人になれる方でも」
「うむ、殿は無欲な方じゃ」
時として吝嗇とさえ言われるまでだ、家康は贅沢もしない。質素な暮らしをしている。女色はそれなりに好むがだ。
「だから天下もな」
「望まれず」
「信濃と甲斐ですな」
「その二国を望まれているだけですな」
「そうじゃ、しかし天下はこれからは」
服部はここで天下がどうなるかも語った。
「やはりな」
「羽柴秀吉殿」
「あの方のものになりますか」
「そうなるであろう。百姓からな」
秀吉が百姓あがりであることはよく知られている、服部はその秀吉のことを眉を曇らせ唸る様にして述べた。
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