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真田十勇士
巻ノ十九 尾張その七

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 由利はその中で鎖鎌と風の術を見せて銭を稼いだうえで伊佐にこう問うた。
「一つよいか」
「何でしょうか」
「御主も芸をしておるな」
「はい、説法ではありませんが」
「では力技等をか」
「そして法力で火を出したりしてです」
 そうしたこともして、というのだ。
「芸をしております」
「御主の法力は凄いからな」
「いえ、それ程でも」
「隠さずともよい、わしも鎖鎌と風の術で稼いでおる」
 そして忍術の芸でだ。
「しかし法力なら御主じゃ」
「御主の法力は剛じゃが」
 ここで霧隠も来て言った。
「見事なのは確かじゃ」
「剛の法力だと」
「うむ、力のな」
「確かに。私の気質がそうなので」
「自分でもわかっておるか」
「そのつもりです、しかし私なぞより強い法力の方がおられまして」
 ここで伊佐がいう者はというと。
「東国に南光坊天海という方がおられまして」
「天海とな」
「はい、結構以上にお歳でかなりの学識がおありで」
「法力もか」
「相当な方です」
 それが天海だというのだ。
「まだお会いしたことはありませぬが」
「そういえば我等は皆西国生まれじゃな」
 猿飛がここでこう言った。
「信濃にしても西国になるしな」
 箱根から東が東国になる、室町幕府はその東国、相模や武蔵等十二国を東国に分けて鎌倉公方の収める分にしたというのだ。
「殿にしてもな」
「はい、我等は皆西国の者です」
 伊佐もそこは確かだと答えた。
「真田家は東国とも関わりがありますが」
「それでも区分はな」
「西国です」
 そちらになるというのだ。
「それで拙僧もまだ東国に行ったことはなく」
「その天海殿にもか」
「お会いしたことありませぬ」
 そうだというのだ。
「まだ」
「左様か、ではな」
「お会いしていないからこそですね」
「お会いしたいのう」
 猿飛はしみじみとした口調で述べた。
「その天海殿にもな」
「はい、しかし天海殿はもう結構なお歳なので」
「お会いする前にか」
「そうも考えられます」
「それなら仕方ない」
 会えずともとだ、猿飛は伊佐にあっさりとして返した。
「会えぬこともあろう、会いたくともな」
「そう考えられるのが佐助殿ですね」
「わしらしいか」
「そのあっさりとした感じが」
「うじうじと何時までも考えるのは性に合わぬ」
 猿飛は笑って伊佐に返した。
「だからな」
「こうしたこともですか」
「そうじゃ、お会い出来ぬなら仕方なかろう」
「諦めるしかないと」
「それなら諦める」
 やはりあっさりしていた、猿飛の言うことは。
「そういうことじゃ」
「ですか」
「天海殿のことも覚えておこう」
 幸村もここで言った。
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