第1話 冒険の始まり
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豪華な部屋で一人の男が不安な表情を顔に浮かべながら、忙しなく歩き回っていた。
精悍な顔立ちに気品さと物静かさを兼ね備えたその男、グランバニア国王パパスは人生で初めて経験する瞬間を今か今かと心待ちにしているのだ。
「パパス王……。お気持ちはわかりますが、せめて座ってお待ちになられたら……」
「うむ、そうだな……」
大臣の言葉に従いパパスは玉座に座るも、ほんの少ししたらどうしても気持ちを抑えきれなくなり玉座から立ち上がり再び忙しなく歩き回り始めたところで召使いのサンチョが慌てた様子で部屋へと入ってきた。
「パパス王……、御子様が、御子様が生まれました!」
サンチョのその言葉にパパスは暫くの間驚いた後に深い喜びをその顔に浮かべた。
「それは真か!ではサンチョ、私の子供の元へと案内してくれ」
「はい、パパス様!」
サンチョは恭しくパパスに敬礼をすると、パパスを伴って歩き始めた。
パパスはサンチョの後ろについていきながら、鼓動が高まっていくのを感じていた。
「パパス様!おめでとうございます、玉のような可愛らしい男の子です!」
パパスとサンチョが部屋の前まで行くと、扉の前にいたメイドは顔を明るくしてそう言った。
「そうか、報告ありがとう」
パパスはメイドに礼を言うと部屋の中に入り、清潔な布で包まれた我が子を愛おしそうに抱いている妻に声を掛けた。
「よくやったな、マーサ」
「あなた……。見てください、この子の可愛らしい顔を」
マーサはパパスに抱いている赤ん坊の顔を見せ、パパスは優しくそっと泣いている息子を抱き抱えた。
「何とも可愛らしい子だ。さて、この子に名前をつけなくてはいけないな」
「あなたはどういう名前にしますか?」
パパスは少し考え込んだ後、マーサに言った。
「トンヌラというのはどうだろうか?」
そのどこか間の抜けた名前に侍女達は苦笑を浮かべる。
パパスは剣術にも学問にも通じており、非常に勇敢で優しいまさに王というべき人物ではあるがネーミングセンスが悪いという欠点があった。
「いい名前ですね……。優しくて、勇敢そうな名前。でも私も名前を考えていました」
「ほぅ。どういう名前だ?」
「アベル、というのはどうでしょうか?」
アベル、アベル……とパパスは妻が考えた名前を反芻した。
「あまりパッとしない名前だが……、お前が考えた名前であるなら私はそれにしよう」
パパスは息子を掲げ、高らかに言った。
「神によって授かった我らが息子よ!今日からお前の名前はアベルだ!」
「まぁ、あなたったら……」
マーサはそんな夫の姿を見て、微笑ましそうに目を細めた。
*
カモメの鳴き声で、アベルは
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